尚人が短パンのポケットから小銭を取り出し、掌の上に載せた。
「俺、ちょっと行ってくるわ」
勝也は鬼に言うと、小走りで同級生の尚人の元へと駆けた。
「コロッケ、一個ちょうだい」
庇の下にたどり着いたとき、尚人が店に入った。
「まいど!」
角刈りの若い店員が尚人に言い、揚げたてのコロッケを小さな紙袋に入れた。
「尚人、それ食べたら一緒に遊ぼう」
「うん」
尚人の声は、いつものように消え入りそうだった。視線は香ばしい匂いを放つコロッケに集中したままだ。
「三角ベースにするか、それともだるまさんが転んだにするか?」
尚人の肩に手を回して店を出た瞬間だった。
「ビンボー人が、いっちょまえに買い食いしてんじゃねえよ」
小太りの五年生が尚人の手を叩いた。直後、コロッケが熱いアスファルトに落ちた。
「なにすんだよ!」
勝也は一回り体の大きな五年生に詰め寄った。
「おめえな、四年なのに生意気なんだよ」
五年生は大袈裟に足を上げると、地面に落ちたコロッケを踏み潰した。
「食ってみろ、バーカ」
「尚人に謝れ、弁償しろ!」
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