広場に面したクリーニング店の窓際にあるラジオから、ダンシング・オールナイトが漏れ聞こえている。嗄れた高音のボーカルで、激しいビートが耳に残る。歌番組で流れるおなじみのメロディーを口ずさんでいると、鬼の声が聞こえた。
「勝也、あれ見ろよ」
五年生の鬼が顎ですみよし精肉店の方向を指した。
「すみよしがどうしたの?」
小鼻を動かしながら尋ねた。惣菜コーナーのコロッケやハムカツ、メンチカツを揚げるラードの香ばしい匂いが否応なく鼻先に届く。
「だから、ちゃんと見ろって」
鬼の声に苛立ちが加わる。勝也は目を凝らした。三〇メートルほど先、〈精肉・惣菜の店 すみよし〉と染め抜かれた庇の下に、知った顔があった。
「尚人だ」
「だろ。大丈夫なのか、あいつ」
鬼がすみよしへ顔を向けた瞬間、勝也は右腕に刺激を感じた。
「鬼、きーった!」
三年生の女の子が得意げに笑い、クリーニング店の方向へ走った。これで「だるまさんが転んだ」が振り出しに戻った。
「もうやめだ」
不貞腐れた鬼がゲームを放棄し、その場に座り込んだ。勝也はなおもすみよしの庇の下にいる尚人に目を向け続けた。
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