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『マンモスの抜け殻』相場英雄――立ち読み

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

別冊文藝春秋 電子版32号(2020年7月号)

文藝春秋・編

別冊文藝春秋 電子版32号(2020年7月号)

文藝春秋・編

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「別冊文藝春秋 電子版32号」(文藝春秋 編)

 勝也が声を張り上げたとき、五年生が口元を歪ませ、笑った。

「だから、生意気なんだよ」

 五年生は勝也の肩を力一杯押した。

「痛ってえな」

 勝也はなんとか踏み止まり、五年生の開襟シャツに手をかけた。

「謝れ、弁償しろ!」

「やだね」

「なんだと!」

 もう一度、勝也は五年生につかみかかろうとした。

「勝也、もういいよ」

 尚人が小声で言った。目を向けると、尚人は肩を震わせ、両目が真っ赤になっていた。

「よくねえよ!」

 勝也が怒鳴ったとき、誰かが尚人の肩を叩いた。

「坊主、これ持っていきな」

 角刈りの店員は尚人にコロッケを押しつけると、そそくさと店に戻っていった。あの五年生はいつのまにか姿が見えなくなっている。

「ほら、オヤジさんが見てねえうちに」

 店員が後ろを振り返った。職人気質で怒りっぽい店主を気にしている。

「勝也……」

 尚人がか細い声で名を呼んだ。

「どうした?」

「あの子……」

 勝也は尚人の視線をたどった。店の庇から少し離れた場所で、おさげ髪の少女が店を見つめていた。

「環だ」

 環は二年生だ。勝也や尚人と同じ、富丘団地の三三号棟に住む。

「きっと、環の方が腹減ってる」

 尚人は消え入りそうな声で言って、手元にあるコロッケを見た。環は襟がだらんと伸びきったTシャツ、所々破れたジーパンを穿いていた。

「ほら、あげるよ」

 尚人は環の前に進み出て、コロッケが入った紙袋を差し出した。

別冊文藝春秋からうまれた本

電子書籍
別冊文藝春秋 電子版32号(2020年7月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年06月19日

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  • 『運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』安田隆夫・著

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