本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる
相場英雄「〈逃げ場なし〉のヒリヒリした感覚を味わいながら書いている」

相場英雄「〈逃げ場なし〉のヒリヒリした感覚を味わいながら書いている」

相場 英雄

新連載『マンモスの抜け殻』に寄せて

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

「別冊文藝春秋 電子版32号」(文藝春秋 編)

 もし両親が病を患ったら、怪我を負ったらどうするのか。目一杯スケジュールを詰め込んだ仕事に影響が及ぶのは必至であり、介護のために収入が減る事態にも直面することになる。ここ数年、私はそんな不安からずっと目を背けてきた。もちろん、介護保険など公的なセーフティーネット、民間の有料サービスを組み合わせることになるのだが、正直なところ、所詮は他人事だとタカをくくってきた。

 今回、本作を書くにあたり、複数の専門家に取材する機会を得た。すると、今後国民の四人に一人が直面する介護というフィールドが極めて脆弱なシステムに寄りかかり、かつ薄氷の上に成り立っていることが判明した。万が一、年老いた自分の親が各種介護サービスを受ける段階になったらどうするか。取材と並行して私は考え続けた。

 両親を東京に呼び、頻繁に世話をするのが良いか。あるいは住み慣れた郷里で各種サービスをフルに活用する方が親のためになるのでは。

 私自身も齢五〇を超え、人生の終わりが見え始めているだけに、本作を綴りながら〈逃げ場がないなあ〉と嘆くことしきりだ。

 介護現場の周辺には、深刻な人手不足やサービスの原資となるカネの枯渇など、様々な社会問題も横たわる。翻って、永田町は深刻化することが必至な介護問題と距離を置こうとしているように見える。なぜなら、カネばかりかかって、票につながりにくいからだ。つまり、国民の四人に一人の後期高齢者たちは、社会から見捨てられる恐れさえあるのだ。書き手の私だけでなく、読者にも「逃げ場なし」のヒリヒリした感覚を味わっていただけたら幸いだ。


「マンモスの抜け殻」の立ち読みはこちら

別冊文藝春秋からうまれた本

電子書籍
別冊文藝春秋 電子版32号(2020年7月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年06月19日

プレゼント
  • 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著

    ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。

    応募期間 2024/3/29~2024/4/5
    賞品 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著 5名様

    ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。

ページの先頭へ戻る