- 2020.07.01
- インタビュー・対談
<荻原浩インタビュー>還暦をすぎて漫画家デビューしました
「オール讀物」編集部
『人生がそんなにも美しいのなら』(荻原 浩)
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#コミック・コミックエッセイ
漫画ならではの表現を生かす
「大学四年のとき、『会社勤めしたくない』と一念発起して、漫画家を目指したことがありました。手塚賞に応募しようとしたんですが、結局、ペン入れがうまくいかずあっさり挫折。そういう意味では、今回、四十数年来の夢がかなったともいえますね」
キーボードをペンに持ち替え、このたび短編漫画八本を収めた作品集を上梓した荻原さん。漫画家になってわかったことは、漫画と小説は「身体を使って書くのは同じでも、サッカーと野球くらい違う」ことだという。
「物語の『種』みたいなものは一緒かもしれないけれど、いざ書き始めると『最初の一行どうしよう』なのか、『主人公はどんな顔してるんだろう』なのか、考える筋道が違ってくるんです。最初から意識していたわけでは全然ないですが、結果として、小説では表現しづらいものを漫画で描くことができたかなと思っています」
表題作「人生がそんなにも美しいのなら」は、入院中の九十三歳の老女が主人公。冒頭、彼女がベッドで手鏡を覗くと、昔の自分と思われる若い女性の顔が映って見えるのだが、
「これ、おばあさんが昔を懐かしく回顧しているのか、認知症で過去と現実が混乱しているのか、あるいはすっかり幻想の世界に入り込んでしまっているのか、たぶんその全部だと思うんですけど、漫画であればこれをほんの一コマで表現できるんですね。
でも、このニュアンスを本人の一人称視点で小説化するのは難しいし、かといって三人称視点で『鏡には老婆の若い頃の姿が映っているが、彼女は気づいているのかどうか』などと書いても説明っぽくて興ざめですよね」
いっぽう、漫画ならではの苦労も。
「小説なら『一面のトウモロコシ畑』『鬱蒼としたジャングル』で済むところを、絵だと何時間もかけてペン入れしていかなきゃなりません(笑)。いま漫画はデジタルで描くのが主流ですけど、僕は完全アナログ派。間違えたらぜんぶ修正液で消しますし、大事なコマを失敗するとページごと最初から描き直していました」
現在は、小説を書く日常に完全復帰したという荻原さん。
「この一冊で『漫画はおしまい』のつもりでしたけど、実はあと一、二編、描いてみたい気持ちもあるんです。年をとると目がかすれ、手も動かなくなってくるので、身体の無理がきくうちにもうちょっとだけ、って。
幸い、近所のユザワヤで買ったスクリーントーンが、仕事場の棚ふたつ分たっぷり残ってるので、注文さえあれば、いつでも対応できます(笑)」
おぎわらひろし 一九五六年生まれ。『明日の記憶』で山本周五郎賞、『二千七百の夏と冬』で山田風太郎賞、『海の見える理髪店』で直木賞を受賞。近著に『楽園の真下』等。
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