2008.10.20 インタビューほか

ブームに踊る人々を描く七篇

構成: 青木 千恵 (フリーライター)

『ちょいな人々』 (荻原浩 著)

――新刊『ちょいな人々』は、二〇〇六年から〇七年にかけて「オール讀物」に掲載された七篇を編んだ短篇集です。だいぶ笑わせていただきました。ユーモア小説集という印象ですね。

 短篇を書くのは好きなんですが、長篇の依頼が多くてなかなか書く機会がないんです。長篇ではできないファンタジー、ホラーっぽい非現実的なものと、市井の人々の現実的なワンシーンを、ちくっと皮肉っぽく書くものとの二つの方向性を短篇に持たせて、自分で勝手にシリーズのようにして書いてきました。この短篇集は後者の流れのものです。ただ、初めて「短篇集を出すぞ」という気持ちのもとに書けた本ですね。前回の主人公が中年のおやじだから、今度は若くしてみようとか、全体にバランスよく、人物の年齢や性別を書き分けることができた短篇集です。

――表題作の「ちょいな人々」は、とある印刷会社が舞台です。社長が毎週金曜日をノーネクタイの“カジュアル・フライデー”に決めて、おじさんたちがカジュアルファッションに挑戦して、職場が異様な雰囲気になる話です。

 これを書いた〇六年頃は、“ちょいワル”ブームが盛り上がっていました。僕も、中途半端に髭(ひげ)を生やしはじめたのはその頃からですね(笑)。とりあえず研究しようと、“オトナ系ファッション誌”を全部買いました。それっぽい雑誌を書店のカウンターに積み上げたら、店員さんから「ちょいワルになりたいのね」という目で見られて(笑)、違う、仕事で買っているんだと、さりげなく「領収書ください」とか言って。で、読んでびっくりしました。ジャケットなんてこんなペラペラなもので、二十何万だと。もう、本を叩きつけたくなりました。誰がこんなの買うんだと。

――主人公は二十三万のジャケットを買ってしまいます。こういう、翻弄される人々が登場するのはなぜですか。

 自分のことでもあるし、読んでくれる人も、「馬鹿だな」と思いながらも、どこかで似たようなことしてるんじゃないでしょうか。最初に書いた「ガーデンウォーズ」は、ガーデニング・ブームですね。実は僕も好きです。環境にやさしいようで、一個の花を育てたり野菜を作ったりするのに、車を飛ばしてホームセンターに行き、化学肥料をどっさりつぎ込んで、できたちっちゃなキュウリやナスを見て「自然っていいなあ」と、少し矛盾している(笑)。登場人物はみんな普通の人ですが、普通といっても同じ人はいないわけで、この人はどういう人なのかを短篇の枚数の範囲でわかるように書こうと工夫しています。「ちょいな人々」の主人公は髭が濃くて、若い頃のあだ名は「砂消しゴム」で、コンプレックスがあったんだろうなとか(笑)、何かちょっとしたエピソードで、あ、こういう奴いるよな、と思ってもらえたらと書いています。

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ちょいな人々
荻原浩・著

定価:本体543円+税 発売日:2011年07月08日

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