浪曲という芸能は、浪曲師と三味線を弾く曲師との共同作業によって成立する。よってふたりによる稽古は欠かせないが、師匠の年齢を考えると、健康面への気配りが必要となる。
「私の弟子には豊子師匠のために、他の用事では外出せず稽古に来るようにと話してあります。でも、お師匠さんは後先考えずに行動してしまう方で、みなさんが外出を控えている時期に、ひとりで浅草の街に出かけてしまったりするんですよ。本当に目が離せない。自由すぎるところが、魅力でもあるんですが、今はリスクがあるので、心配で仕方がありません。精いっぱいお師匠さんのそばにいて、お師匠さんを守るように努めています」
奈々福は母を喪っても、豊子師匠との絆がある。浪曲の世界ならではの結びつきだろう。かつて出版社で編集を勤めていた才女である奈々福は、自分と浪曲の未来を次のように話す。
「今回のコロナウイルス禍で、もう元には戻れないと思います。満席、完売という環境に戻るには数年が必要となるような気がします。そうなれば職業として、経済的に成り立たなくなるかもしれない。もしも、そうなったら自分は浪曲を続けるだろうか? と自問自答してみました」
答えは、「やるだろうな」というものだった。
「たぶん、浪曲で稼げなくなっても、アルバイトをしながらでも続けるでしょう。では、なぜ続けるのかと問われれば、私自身に、浪曲が、物語が、必要だからです」
奈々福は芸能というもの、浪曲というものは「不要不急の最たるもの」だと自認している。
「それでも曲や物語を必要としている人、存在すると思うんです。私は浪曲を続けて、そういう人たちと出会えたらいいなと思う。物語に浸りきると、己を離れられる瞬間がある。今後、つらい世界になってしまうかもしれないけど、そんなときに社会のセーフティネットとして浪曲があっていいと思うんです。私は、そこにい続けたい」
これからは、客席が熱気に満ちた過去の状態を目指さず、自分に出来ることをコツコツとやっていきたいと話す。
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