その意味で、伯山は新型コロナウイルス禍にあっても存在感は衰えることなく、「革命児」として講談を発信し続けている。ブレーンであり事務所社長でもある妻の古舘理沙氏をはじめ、チームで新しいメディアに取り組んでいけるのが「チーム伯山」の強みだろう。今後はリモートでの稽古など、可能性が広がっていくのではないか。
「技術的には十分に可能な状況になっているでしょうね。でも、僕は修業って“フィジカル”なことが大切だと思っているんです。たとえば、今回のコロナ騒動のおかげで、寄席に詰める前座は交代制になってしまいました。“密”を避けるためです。時代の流れからみれば当然でしょうが、前座仲間とああだこうだいいながら仕事をこなしていく時間というのもまた、貴重なものなんです。師匠とのリモートの稽古も当然考えられますが、人間国宝でもある師匠の神田松鯉が現代のテクノロジーを使いこなせるかという関門があります(笑)。それはともかく、私は稽古でもフィジカルな記憶が大事だと思っています。駅から師匠の家に向かって『大丈夫かな……』と不安になりながら歩いて行く。こうしたことも含めて稽古だと思っているんです」
入門してまもない時期に覚えた読物にまつわる記憶。外で大声を出しながら稽古し、師匠の家へと向かう道すがら、口で反芻しながらネタをさらった時のこと。
「きっと、私が七十歳近くになっても、その時のことは覚えているでしょうね」
伯山の師匠である神田松鯉は、今年の秋に七十八歳になる。師匠の健康を気遣いながら、一門では稽古を再開したという。最近は、伯山のもとにも弟子志願者が訪れるようになった。
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