- 2020.08.06
- 特集
祝・連載再開! 作家・伊集院静の人生相談「悩むが花」から傑作10選一挙紹介――『女と男の品格。』好評発売中
文:「オール讀物」編集部
「顔のいい男にだけは気を付けろ」「男は助平でどうしようもない生きものだ」「すぐに旅に出なさい」
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#随筆・エッセイ
我らの伊集院静が帰ってきた! 今年1月のくも膜下出血による緊急入院以来、半年にわたって休筆していた人気連載「悩むが花」が、8月6日発売の「週刊文春」8月13・20日夏の特大号からついに再開。ふたたび名回答を堪能できることを祝して、過去の悩み相談からとっておきの10本をショートバージョンでご紹介します。
Q 亡くなった祖母から「顔のいい男にだけは気を付けろ」と口酸っぱく言われてきましたが、最近、生まれて初めて彼氏ができ、それがすごい美男子なんです。(18歳・女・大学生)
A いや、たいしたお祖母(ばあ)ちゃんを持って、あなたは幸運だよ。
「顔のいい男にだけは気を付けろ」とおっしゃいましたか。これだけの名言をお孫さんに残して天国へ行く女性も珍しいナ。
それで何だって?
生まれて初めてデキタ彼氏が、スゴイ美男子なの?
目は悪くないよね、お嬢さん? 気もたしかだよね?
そりゃ、良かったじゃないの。そのまましあわせに過ごしなさい。
これは人から聞いたんだけど、美男子というのは、頭のめぐりが悪いらしいよ。美男子は人生の大切な時に、踏ん張りがきかないってのも聞いたことがあるけど、たかが踏ん張りくらい、いいんじゃない。美男子は人生の晩年があわれだと言うけど、それは晩年の話だから、いいんじゃない。
おしあわせに。
Q 九十七歳の母が「元気すぎる」のが悩み。私の父は四十九歳で世を去りました。父の棺にすがった母が「私もすぐ追っかけるから」と号泣していたあの日から早や半世紀。先日、母より先に兄が他界し、私も身体のあちこちに病いを抱えています。母より長生きしなければと思うほどプレッシャーを感じています。(62歳・男・会社員)
A 親の存在は空気のようなもので、元気なうちは有難味は湧きません。
これは仕方がないんです。なぜならあなたの母上は、元気にしているところだけをあなたに見せているからです。
五十年前、あなたの父上が亡くなった時、あなたも、あなたの兄上もまだ十代の子供でした。悲しんでばかりではイケナイと、母上は気丈に振る舞ったことでしょう。どこの世界に夫を亡くして、不安、絶望、悲しみを感じない若妻がいますか。
兄上を亡くした時の母上の悲しみはさらに切ないものだったはずです。世の中の悲しみの中で、我が子を先に亡くした親の悲しみが、一番辛いものです。それでも母上は気丈に暮らしてらっしゃるのです。
兄上に続いて、もし弟のあなたを先に見送るようなことになったら、母上の悲しみは想像を越えるものになるでしょう。
子供たち、孫たちのために元気でいようと踏ん張ってきた人を、悲しみの底に落とすようなことをしてはなりません。
石にかじりついても、母上より長く生きなさい。
プレッシャー? 甘いことを口にしなさんナ。
誰が産んで、誰が育ててくれたんですか。自分よりあなたを大切にして生きてきた人への、大人の男としての責任があるでしょうが。
Q よく「話がつまらない」と言われます。女性をデートに誘っても、間が持ちません。相手を楽しませる会話の秘訣を教えてください。(28歳・男・会社員)
A 黙ってなさい。
大人の男の話というのは、誰かを面白がらせたりするためにあるんじゃないんだ。
Q 付き合って一年の彼氏がいます。両親には秘密にしていて、デートやお泊りのときは、「大学の友達と出かけてくる」と嘘をついています。親を騙すことがだんだん後ろめたくなってきていますが、正直に話すべきでしょうか。(20歳・女・大学生)
A そんなことを両親に打ち明けちゃダメだ。
目の中に入れても痛くない可愛い娘さんが、お泊りします、なんて口にしたら、パパもママも卒倒してしまうに決っているからね。
お嬢さんは彼氏のことも好きだけど、ご両親のことも大好きなんでしょう。
わかるナ、その清らかな気持ち。
清らかだけど、彼氏に抱っこしてもらうのも、なぜか大好きなんでしょう?
わかるナ。その清らかな性欲。さわやかな愛撫。けなげな四十八手(このくらいにしとこうか)。
一生、ご両親に嘘をつき通しなさい。
うしろめたさこそ、抱っこの原動力ですぞ。