- 2020.08.06
- 特集
祝・連載再開! 作家・伊集院静の人生相談「悩むが花」から傑作10選一挙紹介――『女と男の品格。』好評発売中
文:「オール讀物」編集部
「顔のいい男にだけは気を付けろ」「男は助平でどうしようもない生きものだ」「すぐに旅に出なさい」
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#随筆・エッセイ
Q 四十年以上恋心を抱いている男性から「自分もこの歳(六十八歳)で、もう男ではなくなった。死ぬまでに一度、君と添い寝して過ごしたい」と告げられました。お互い連れ合いのある身。男女の関係になるつもりはありませんが、添い寝だけなら……と迷います。(65歳・女・主婦)
A 六十五歳の奥さん。男というものを誤解してはイケマセンよ。
これは必ず、合体になります。
男女の関係になるつもりがないのなら、きっぱり拒絶をなさい。
男というものは、死ぬまで男でしかありません。女の人が考えるより、助平で、どうしようもない生きものなんです。
考えてもごらんなさい。“添い寝”という発想自体が、すでにおかしいでしょうが。
十中八九、相手は“添い寝”の先の行動をしてきます。それが男というものです。
Q フィギュアスケートの女子選手が、まるで裸みたいな格好で正視できません。女の子がお尻をあんなに出して……などと思うのは、僕の頭がオカシイのでしょうか。(18歳・男・高校三年生)
A 君は素晴らしい感性の持ち主だ。
やっと君のようなゆたかな情緒を持つ若者から相談が来ましたか。
私も以前から、君と同じ考えを抱いておったんだよ。フィギュアスケートなんて片脚を持って、それを持ち上げてるんだよ。それも若い女の子が堂々と人前でそんなポーズを取ってるんだから、思春期の君が興奮するのは当然だ。
ああいうのは見ない方がよろしい。
最後に、私からの忠告だが、君の思ってることはたとえ家族でも、親友でも打ち明けてはいかんよ。私は一度、家人(妻)と親戚皆でイナバウアーを見てた時、つい口がすべって「これ全裸だとスゴイだろうナ」と言ってしまい、約一年口をきいてもらえなかったから。
Q お隣の男の子がどうやらいじめに遭っているようです。いつも制服が汚れていますし、クラスメートに泣かされている場面もたびたび目撃します。でも、妻にその話をすると、「お隣にはお隣の家庭があるのだから、関与しないで」と言われました。(51歳・男・会社員)
A 見て見ぬ振りをしたら、大人の男としておかしいでしょう。
まずはその子に声をかけてみることだ。
相手を子供扱いせず、大人として、男として、何かできることはないか、と話してみることだ。
自分で解決する、と言ってきたら、じゃ頑張ってやりなさい、と伝え、もし一人でできないと思ったら、いつでも一緒に相手にむかって行ってあげるから、と言うんだ。
えっ、それで決闘の場所に連れて行かれたら、どうするかって?
やるっきゃないでしょう。
隣りの子だぜ。身内同然じゃないか。
Q 人生で初めて恋人ができました。大変くだらない悩みではあるのですが、実は自分はこの歳でまだ童貞でして、そのことを彼女に言うべきかどうか悩んでいます。(42歳・男・会社員)
A 君、何も心配はいらんよ。
童貞と、そうじゃないのとに何の差があると思ってるの。
セックスに特別の技術を持っとる男なんてのは、実にくだらん奴ばかりだよ。
動物界を見てごらんなさい。
何も知らんでも、ちゃんとコトが始まり、完了するのが、私たち生きものなんだよ。
童貞と、そうでない者の差は、回転ドアの外と内の違いみたいなもんで、中に足を踏み入れてしまえば、それでいいんだ。
Q 息子が扇風機のスイッチを足で押しているので叱ったら、新聞のアンケート記事を持ってきました。なんと八割近い人が「足の指で扇風機を操作してもいい。自分もよくやる」と回答しているそうです。(50歳・男・公務員)
A 五十歳のお父さん、あなたは何ひとつ間違っていません。
足の指で扇風機のスイッチを押す人間はすでに人間のクズです。
足は大地を踏みしめ、人間がむかうべき場所へ歩いて行くための身体の一部です。
どこに足の指でメシを食べる者がいますか。どこに神社に参詣に行って、足を合わせて祈るバカがいますか。
お父さん、堂々と言ってやりなさい。
人生の夢や希望を、足を伸ばしてつかんだ者は誰一人いないと。
Q 僕には今、夢中になれるものがありません。本を読んでも、映画を観ても、何ひとつ頭に入ってこないのです。何かに打ち込むきっかけが欲しいのですが。(20歳・男・専門学校生)
A すぐに旅に出なさい。
どこに? どこだっていい。君は自分の街から、この国から外に出るのがいい。
安いチケットで言葉の通じない国に行き、そこでどんな人間が、どんなふうに生きて、暮らして、笑い、嘆いているかを、実際に自分の目で見ることだ。
そうすれば君の中に眠っていた何かが目を覚まし、世の中って何だ? 自分とは何者なんだ? ということが少しずつ見えてくる。
何かが見えれば、別に日本なんぞに帰ってくる必要はないよ。
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