笑い声。甲高い音楽に重なるナレーション。原色のテロップ。ひと通り変えてから、天気予報でチャンネルを止める。低気圧が日本海を北東へ進み、南に延びる前線が日本列島を通過。全国的に雨が降り……。バスタオル二枚に、トレーナー三枚、スウェットの上下が一組と、デニムが一本、とゆりなは乾きにくい洗濯物を数えた。ベランダに干すか、中にするか。明後日まで雨マークだよ。明後日はひでくん休みで洗濯係。柔軟剤なくなりかけだから出しとかないと。日曜はどこ行くんだっけ。また映画だ。昨日ネットで見たファンデ買うなら明日の仕事帰り。軽いけど毛穴がしっかり隠れるってほんとかな。ボトルが可愛かった。でも色味が。見てみなきゃわかんないか。品があるピンクだといいな。
味が染みすぎて黒くなった竹輪の煮物でご飯を食べ終えると、ゆりなはしばらくニュース番組を眺めてから立ち上がる。洗い物を済ませて炊飯器をセットすると、パジャマの上からカーディガンを羽織ってベランダに向かう。
西の空に、濃い灰色の雲が立ちこめていた。風に流されて目まぐるしく形を変えながら、見る間に南の方へ広がっていく。ゆりなは午後からの降水確率を考えながら洗濯物を取りだし、部屋干しにするかどうかを迷ってから、ベランダに干していく。二日分の衣類やタオル類を干し終えて、自分の下着だけを手に部屋へ戻ろうとしたところで、足の裏に何かが付着しているのがわかった。
膝を曲げて、足の裏に貼りついたものを摘まみあげると、まだ半乾きの接着剤がまだらに付いた、つけまつげだった。ゆりなが踏みつけたせいか、緩く弧を描いた弓形の部分も、放射状に伸びた毛の部分も、折れ曲がって絡みあっている。
つけまつげをこの前つけたのはいつだろう、とゆりなは記憶を遡る。仕事を始めて何年かは、週末だけつけてたっけ。後は結婚式。最後に呼ばれたのは二年前かな。リビングルームの隅にあるドレッサーの抽斗を開けてメイク道具を掻き分けてみるが、使いかけのケースさえ見当たらない。訝りながらも、ゆりなはつけまつげをゴミ箱に捨てた。
この続きは、「文學界」11月号に全文掲載されています。
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