トップ選手に届いた脅迫状。警視庁の悠宇は捜査に乗り出し、あることに気づく。『アキレウスの背中』長浦京――立ち読み
「すごい精神力だな」
板東がコートのポケットに手を入れたまま、また口を開く。
「この状況で走り続けられることが?」
二瓶が訊いた。
「そう。励ましの声もないし、気分を盛り上げるための音楽も流れてない。逆に、ドローンのプロペラ音が近くで鳴り続けていれば嫌でも気になる」
「確かに集中しやすい状況ではないか」
「そんな中で、あのスピードを出し続けられるのは、やっぱ一流選手だなと思って。今、実際のレースに近い時速二十キロくらい出てるけど、伴走者もいないのに、これだけ実戦に近いモチベーションと速度を保ち続けるなんて、俺には無理だ」
元第一機動隊所属で資料作成やプレゼンが苦手な自分を、板東自身は筋肉バカと半分卑下しながら呼んでいる。だが、悪くない観察眼だ。やはり今回のミッション・インテグレイテッド・チームに選抜されただけのことはある。
悠宇にもわかる。人間の実力は、競い合う相手がいてこそ発揮され、さらにその上の力までも引き出されるものだ。
ただ、そんな嶺川の見えない内面の強さより、単純に彼の速さに圧倒されていた。
過去のマラソンレースの録画を見るのと、こうして走る姿を目の当たりにするのでは、まるで違う。これが持久走? ほとんど全力疾走じゃん。このペースで約二時間走り続けるなんて、やはり常人じゃない。
安っぽい喩えだけれど、地面の数センチ上を翔んでいるように見える。
テントの下に座っている大園総監督の背中が動き、マイクにまた何か話した。
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