◆しばらく以前のこと、「向日性について」「親水性について」「不燃性について」という3本の掌篇小説セットを計画していたことがあり、当初の予定では「柳小橋界隈」の部分のみが独立した掌篇「不燃性について」となる筈だった。ここからいろいろ長なが付け足していって連作風の長編『飛ぶ孔雀』とした訳で、従ってさいごは冒頭に戻るしか話を終わらせる方法はないのだった。これは当然のこと。
◆「三角点」や「火種屋」のような〈男だけの話〉は書き易い。「ひがし山」のような女はやはり厄介。ペリット社は実在する。通販できるらしい。
◆茶会パートの増殖する関守石は密かにお気に入りで、ほんとうはちょっと喋らせてみたかった。喋ったのは犬と石灯籠だけ。人工的な緑一色の芝生と波柵には個人的にオブセッションがあり、あれは必ず動く、芝目などもあるし、と長年勝手に思っている。岡山・後楽園のすぐへりで育ったので、そこは遊び場であり、身長が低く地面に近い子どもの視点でもってあの島とあの庭園を見ていたのだ。
◆登場人物の再登場問題について。たとえば「ひがし山」のヒワはのちに再登場しないのか?「橋を渡りながら感極まって妙な声を出す人物」がどこかで出てくるべき、さほどの意味はなくても、と考えながら書いたのだったが――後半の「不燃性について」では出てこない。
◆後半のKの相手の女は順に変わっていき、Qの相手はごたごた。登場人物たちは順次それぞれの理由により山へと移動するが、復路へ移行できる者はほぼ半数程度。基本の動線はこれだけで、あとは枝葉末節。といった態度の不真面目さは往々にして散見される。
◆人物のモデルはいたりいなかったり。財布をなくしてちょっと泣いてしまった男の子やことらさんは実在する、など。
◆神戸の布引ロープウェイは数年まえにゴンドラを新しくしたが、それ以前は青い照明のゴンドラだった。夏場は夜9時くらいまで運行しており、あの青さはいかにも〈幻想的〉でたいへん好きだった。
◆この本で作者が真面目に気に入っているのは、ラスト2ページほどの〈付け足しのエンディング〉の部分。ロープウェイの青い照明のゴンドラが夜間飛行のように街の中心へ降りていき、ビルの屋上に着地するところ。ラストの女の子の(特に何ということもない)セリフ。
◆名なし問題。もともとアルファベットやカタカナの記号的な名しか出てこないので、全員名なしのようなものなのだが。カタカナ1文字まで軽減できればあと一歩なので、嬉しくて仕方がなかった。何を言っているのか謎である。
いくらでも続けてしまうのでこのあたりにしておくが、ところで先日、「じぐざぐの山」の前を通るとじぐざぐではなくなっていたので驚いた。大雨で土が崩れて流れたらしく、階段状だった山肌がすべて滑らかな斜面になっていて、別の山のようだった。岡山と兵庫の県境、福石あたり。豪雨災害の爪あとがこんなところにも。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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