コラム・エッセイ

祝『飛ぶ孔雀』文庫化! 幻の著者エッセイ&人物相関図

山尾 悠子

『飛ぶ孔雀』スペシャルペーパー再録

終わらない物語を読み解くために――

 『飛ぶ孔雀』の文庫化にあたって、単行本刊行時に作成されたスペシャルペーパーの一部をWeb再録いたします。山尾悠子さん特別寄稿のエッセイ「飛ぶ孔雀、その後」と、読書のおともに便利な「飛ぶ孔雀 人物相関図」。ぜひ、文庫版『飛ぶ孔雀』と一緒にお楽しみください。

飛ぶ孔雀、その後

(※本エッセイは単行本刊行の2018年に書かれたものです。)

『飛ぶ孔雀』(山尾 悠子)
 

 岡山から神戸へ車で移動するには渋滞のない北回り、北神戸の山中から新神戸トンネルを一気に抜けるルートがどうやら具合がいいようなのである。神戸にはご縁があってここ10年ほど頻繁に通うようになり、南回りの渋滞の多さにも辟易してこちらのルートに落ち着いたのだった。トンネル北入り口方面へ向かう山陽自動車道木見支線の途中に小さなシブレ山トンネルがあり、さいしょに名を知ったときは何しろ不思議な地名だなあ、と驚き、カーナビ画面を見ると近くにシビレ山もあるらしい。「シブレ山の石切り場で事故があって、火は燃え難くなった。」という『飛ぶ孔雀』の書き出しはこうして発生したのだが、ただし小説の舞台の多くは生まれ育った岡山市のあちこちをモデルにしており、何だか訳のわからない小説になっている。――以上のことは雑誌のエッセイでも書いた。

 であるのだが、作中の「ひがし山」がどうも京都の東山だと思われてしまうようで、これはちょっと計算違いだったかもしれない。実際には岡山市の路面電車の終点、東山電停の周辺がモデルになっているのだが、べつだん岡山でなくても「どこかの地方都市のさびれた町はずれ」と見てもらえればそれでいいので、京都市中心部の賑やかな東山通りでは条件がまったく違う。それにあちらは路面電車の終点だったわけでもないし――などと言いつつ、東山パートの締めのフレーズ「また見る影は朧のひがし山」は、むろん祇園小唄「月は朧に東山」のもじりで、ほんの洒落のつもりが紛らわしさの原因となったかもしれない。とちょっと反省している。

 これを書いているのは8月で、『飛ぶ孔雀』を書いてからかなりの時間が経ち、本の発売から早くも数ヶ月が過ぎた。

 この本に関しては、早逝の天才銅版画家・清原啓子さんの素晴らしい作品を表紙にお借りできたことが何より感慨深く、でも清原さんはこのような小説を果たして気に入って下さるだろうか。『清原啓子作品集』巻末の蔵書リストによれば目の肥えた方だったようで、何とも心もとなく思っている。同年生まれというご縁で大目に見て下されば、と内心思っているのだが。

 火が燃え難いというイメージがどこから来たのかもはや覚えていない。前半は思いきり濃厚な和風テイスト、後半はそれとは対照的な架空の世界、というつもりで書き始めたのだが、後半の架空度は思ったほど絶対的なものとはならなかった。〈濃厚な和風テイスト〉に関しては、半世紀ほど昔の個人的な原風景が反映しているので、このあたりは共有イメージのある年配読者のほうに理解されやすいかも。と密かに思っている。

 以下はこまごましたことを思いつくままに。我ながらまったく妙な小説を書いてしまったので、筋道だった解説文など本人も書けないのである。

飛ぶ孔雀山尾悠子

定価:本体740円+税発売日:2020年11月10日


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