未来に何が起こるかは、本当にわからないものです。
二〇二〇年は、新型コロナウイルス感染症の対策で世界中が明け暮れました。不幸なことに五五〇〇万人を超える人々が感染し、死者数は一三〇万人を超えました(二〇二〇年一一月現在)。数十億人の人が生活を制限され、各国の経済は大打撃を受けました。世界がこれだけの大惨事に見舞われると、一年前に予想できた人はどれだけいたでしょうか。ほぼゼロでしょう。人間は未来を予測できるほど賢くはないということです。
不測の事態に直面したとき、私たちが参考にできるのは過去に起こった出来事しかありません。今回のコロナ禍でも、一四世紀の黒死病(ペスト)や一〇〇年前のスペイン風邪が話題になりました。「これはあのケースに近いかも」と考えることで思考や行動のヒントになるからです。逆に過去との違いを知ることも重要です。「その違いの理由はなんだろう」と考えることで、新たな発見につながることもある。未来が誰にも予測できない以上、私たちの唯一の教材は過去の出来事、即ち歴史しかないのです。
二〇二〇年二月、僕が学長を務める立命館アジア太平洋大学(APU)で、新型コロナウイルスの対策が必要になったときに、まず頭を過ったのも歴史でした。人類と感染症の戦いや、当時のリーダーの決断力に思いを馳せながら、大学の方向性を決める際の参考にしました(その思考の過程は本書にも収録されています)。
歴史を学ぶことの意義の一つは、このように予期せぬ出来事に遭遇した時、適応するため参考にする、即ち「歴史を活かす」ことにつきるだろうと僕は考えています。歴史を多く知れば知るほど、最適解にたどり着くヒントになるのです。
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