- 2015.11.10
- インタビュー・対談
めっちゃおもろいやつがおる! 出口治明×仲野徹 歴史に残るリーダーたちの物語(前編)
「本の話」編集部
『世界史の10人』 (出口治明 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
ライフネット生命保険の代表取締役会長兼CEOにして、無類の本好きで知られる出口治明さん。ヘロドトスの『歴史』や、カエサルの『ガリア戦記』といった古典中の古典から、ヤマザキマリさんの『男性論』(文春新書)といった柔らかい本まで、幅広く読み尽くしている。
その出口さんの膨大な知識をもとに、世界史上にイノベーションを巻き起こしたリーダー10人をとりあげた『世界史の10人』が刊行された。
果たして出口さんが選んだリーダーとは? 彼らは、どのような指導力を発揮したのか? 『エピジェネティクス』(岩波新書)で新しい生命像を描いた、仲野徹・大阪大学大学院教授と一緒に、世界史の魅力について語ってもらった。
こんなに面白い人物、知らなかった!
仲野 今日は、『世界史の10人』を、教科書を読むように真剣に読んできました(笑)。
出口 いやいや、そんなに丁寧に読んでいただいて光栄です。でも、僕は単なる歴史好きの町のおじさんですから(笑)。いろいろな研究者が発表したものの中で、自分が腑に落ちたことを、自分なりに咀嚼(そしゃく)して書いているだけです。
仲野 それにしても、まず驚いたのが、出口さんのいうリーダーとは、能力があるとか立派な人とかではなく、何かを成し遂げて後世に影響を与えた人物なんですね。結果がすべてだというリーダーのとらえ方は、非常にわかりやすいというか、合理的というか。
出口 どの時代でも、人間の幸せって、ご飯が食べられて、暖かな寝床があって、安心して赤ちゃんが産めて、ときどきお酒を飲みながら愚痴を言える友だちがいることだと、僕は思っているからです。だから結果がすべて。
仲野 みんなが幸せに暮せているのなら、そのときのトップが、性格が悪かろうが、能力がなかろうが、関係ないわけですね。
出口 幸せなら、人は文句を言ったりしないでしょう? どんなにいいことを考えても、戦争をしてそこへ民衆を駆り立てて、みんなが苦労したら、それは、いいリーダーとはいえない。結果責任とは、そういうことだと思います。
仲野 大学受験で世界史を選択したのに、恥ずかしながら、出口さんが挙げられた10人のリーダーのうち4人については、まったく知らなかったんです。
多少なりとも知識があったのは、クビライ、武則天(ぶそくてん)、王安石(おうあんせき)、エリザベス1世、エカチェリーナ2世、そしてナポレオン3世。そのほかのバイバルス、バーブル、アリエノール、フェデリーコ2世については、名前を聞いたこともありませんでした。けっこう有名な人たちなんでしょうか?
出口 バイバルスは、13世紀に世界最強と恐れられたモンゴル軍からエジプトを守った英雄として、アラブの世界ではむちゃくちゃ有名です。しかも、奴隷という身分からスルタンになって、現在のイスラム世界の伝統を築いた人物です。
16世紀にムガール朝を建てたバーブルは、故郷のサマルカンドをあきらめて、インドに新天地を求めたベンチャー精神あふれる君主。
何よりも、『バーブル・ナーマ』という、自伝の最高傑作を残したことで注目されます。同時代のヨーロッパには、カール5世やヘンリー8世、フランソワ1世といった名だたる君主がいますが、これほど生き生きとした自伝を残した人物はいなかった。当時のアジアの文化レベルが、いかに高かったかをあらわしていると思います。
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