- 2015.11.11
- インタビュー・対談
めっちゃおもろいやつがおる! 出口治明×仲野徹 歴史に残るリーダーたちの物語(後編)
「本の話」編集部
『世界史の10人』 (出口治明 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
「めっちゃおもろいやつがおる! 出口治明×仲野徹 歴史に残るリーダーたちの物語(前編)」より続く
ライフネット生命保険の代表取締役会長兼CEOにして、無類の本好きで知られる出口治明さん。ヘロドトスの『歴史』や、カエサルの『ガリア戦記』といった古典中の古典から、ヤマザキマリさんの『男性論』(文春新書)といった柔らかい本まで、幅広く読み尽くしている。
その出口さんの膨大な知識をもとに、世界史上にイノベーションを巻き起こしたリーダー10人をとりあげた『世界史の10人』が刊行された。
果たして出口さんが選んだリーダーとは? 彼らは、どのような指導力を発揮したのか? 『エピジェネティクス』(岩波新書)で新しい生命像を描いた、仲野徹・大阪大学大学院教授と一緒に、世界史の魅力について語ってもらった。
中間層がいることが健全な社会
仲野 時代の波に乗れる人もいれば、生まれるのが早すぎたという人もいますね。その代表が王安石です。でも逆に、王安石は生まれるのが早すぎたから、先進的な改革案を出せたとは考えられませんか? みんなが王安石の改革案を理解するような時代に生まれていたら、彼もワン・オブ・ゼムで終わっていたかもしれない。
出口 ただ、もうちょっと後に生まれて、いい皇帝に出会っていたら、もっといい改革ができたかもしれない。
王安石が作った法律はいくつもありますが、それらがすべて整合的で、矛盾がない。部分、部分は正しくても、全体最適にすることは、なかなかうまくいかないものです。その面で、王安石の能力は傑出していたと思います。
仲野 ひとりでやったから整合性が保てたんじゃないんでしょうか。
出口 彼のやり方は賢くて、今の日本でいえば、霞が関の課長クラスの中でも最優秀者を50人くらい集めて、徹底的に議論をさせて、王安石が出したグランドデザインに沿って法律をつくらせるようなもの。しかも、施行する際には、地方でちょっと試してみるのです。日本でいえば特区で試すといった感じでしょうか。それでうまくいくことがわかれば、全国一斉に施行する。若手の意見を吸い上げて、それでいて、できあがったものが全体として整合性があるというのは、やはり王安石が賢かったからでしょう。
ヤンキーみたいな威勢のいいリーダーに魅かれる恐さ
仲野 そうやってできた法律で、庶民のために物価を統制したり、農民や中小企業の負担を減らしたりして、社会に中間層を増やしたんですね。実に近代的な考えの持ち主です。
出口 古代ローマ帝国が滅んだのは、中間層が減少したことで、帝国の力が弱くなっていったからだといわれています。どんな社会でも、中間層が厚いということは、頑張れば上にあがれるとか、そうした余裕が社会にあることを意味します。お金持ちが雲の上の存在となって、庶民との間に大きな差ができれば、希望がなくなるし、社会がすさんでいく。
仲野 でも、王安石の場合、最後は主戦論に敗れます。北方に強い遊牧騎馬民族の国家があって、彼らとうまくやっていくには、お金で平和を買って、そのための国力を維持するんだ、地道に改革を進めていくんだ、という方法をとっても、最後は、力で北方の脅威に対抗すると主張した人びとに追いやられる。やはり、ヤンキーみたいに元気のいい人が出てきたら、民衆はそっちについていってしまうものなんでしょうか(笑)。
出口 仲野先生、日本の某政治家のことを思い浮かべていませんか?(笑)
歴史をみていると、社会に閉塞感があって、うまくいってないときは、だいたい抜本的な「世直し」を唱える人が出てくるんですね。
仲野 地道な改革よりも、一気に解決できる方法があれば、そちらのほうがいいと……。
出口 でも本当は、社会が閉塞しているときこそ、じっとがまんして着実に改革を進めなきゃいけない。それなのに、「これさえやれば、世の中バラ色になる!」という掛け声に、人は弱い。
仲野 何かをやってくれそうで、口のうまい人に、人は期待してしまう(笑)。
出口 歴史の本を読んでいると、そういう人物って、意外とわかりやすいものです。いいことをしているようにみえても、単なるアジテーターだったんじゃないかと。
仲野 いやぁ、大阪市民もそういう歴史を学ばないとあきませんね(笑)。
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