- 2021.02.23
- インタビュー・対談
藩の政争に巻き込まれた老武士の覚悟とは――『高瀬庄左衛門御留書(たかせしょうざえもんおとどめがき)』(砂原 浩太朗)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
嫁と向き合う老武士の人生に波乱
二〇一八年、歴史小説『いのちがけ 加賀百万石の礎』で単行本デビューし、高い評価を受けた砂原浩太朗さんの二作目は、江戸時代の地方の藩を舞台に描く長編時代小説。主人公の庄左衛門は、五十を手前にして、妻と息子を続けて亡くし、残された嫁の志穂と向き合うことになる。
「嫁と舅という関係性に以前から関心があって。急に若い異性が家族として入ってくるって、どういう感じなんだろうと思っていました。聞いた話ですが、お嫁さんが来た途端、何十年も弾いてなかったピアノを舅が張り切って弾きだしたとか。川端康成の『山の音』でも、恋愛関係にはならないけど、抑えようもない何かがにじみ出てますよね。あとは、藤沢周平さんの『三屋清左衛門残日録』旧ドラマ版。仲代達矢さんが舅、南果歩さんがお嫁さんで、二人とも色っぽいんですよ。原作にそういうニュアンスはありませんが、図らずもキャスティング的に醸し出されたものが心に残っています。それで、そういう関係を作品の柱に据えようと思いました」
二人をつなぐのは、庄左衛門が手慰みに描く絵だ。庄左衛門の姿を見て、志穂も絵を始める。絵画鑑賞が趣味である砂原さんの文体は、描写にも印象的な陰影が浮かぶ。
「光と影のような濃密な対比には惹かれますね。小説では、抑制することでこそ伝わるものがあると信じているので、いつもあえて抑えた筆致で感情をにじみ出させたいと心がけています」
家族を失い、寂寥感を漂わせつつも静かに続くかのようにみえた庄左衛門の日々。しかし思いがけず藩の政争にまきこまれ、物語は大きく動き出す。
「成長小説が好きなんです。庄左衛門は五十歳の男性だけど、彼も成長していく。最初は日々の勤めに疲れ、人生に対して心を閉ざしていたのが、人との出会いを経て、ふたたび外の世界へ思いを向けていきます。最後、青年たちのメンター(指導者、助言者)として心のなかで仰がれるようになるのは、自分が常に成長というテーマを意識しているので自然に出てきた流れですね」
さらに若き日の親友・慎造との再会で、庄左衛門の心にも大きな波が――。
「小説を書くとき、登場人物は作品への出演者だという気もちでいます。出てもらう以上は、芝居のしどころを作ってあげたい。ただ、それは『こいつも意外といいやつだったな』という方向に進みがちでもあります。けれど、慎造という男は、けっしてそうじゃない。それでいて、存在感のあるキャラクターとして書けたことに、作家として手応えを感じています」
すなはらこうたろう 一九六九年兵庫県生まれ。二〇一六年、第二回「決戦!小説大賞」を受賞し作家デビュー。著書に『いのちがけ 加賀百万石の礎』『逆転の戦国史』がある。
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