いま最も注目を集める7人の気鋭作家たちが大集結。知的好奇心を満たす話題満載の大座談会前編は、歴史小説の魅力を伝えるべく、「初心者にお勧めの短篇」「ビジネスに役立つ歴史小説」「自身が偏愛してきた作品」などを縦横無尽に語り合います!
歴史小説家としてのプロデビューまで
――まずは自己紹介を兼ねて、皆さんが歴史小説に親しみ、作家を志したきっかけからお話しいただけますでしょうか。
天野 うちは父親が歴史小説と星新一しか読まない人で、子どもの頃から歴史小説になじみがありました。昔から物語を作ることが好きだったので、小説家を志したんですが、自然に歴史ものを書いてましたね。それもあって、大学は史学科を選びました。
澤田 私も大学、大学院では歴史を勉強しましたが、小説家にだけはなるものかと思ってました(笑)。母親(澤田ふじ子氏)が小説家ということもあり、身近すぎて関心が向かなかったんです。はじめは研究者の道を考えていたのですが、とても食べていけそうにない。それでも、歴史とは関わっていきたかったので、小説だったら歴史とつながる仕事が出来るんじゃないかと考えるようになりました。
武川 澤田さんと同じく、最初はドイツ文学の研究者を目指していたものの途中で断念しました。ただ私の場合、ヨーロッパの歴史、十四世紀のイタリア都市国家や、イタリア、スイスの傭兵、ドイツの農民戦争のあたりがすごく好きで、以前は日本の戦国時代ってほとんど興味がなかったんです。社会人になって書店員として働いていたとき、『信長協奏曲』という漫画がドラマ化するタイミングで、それを読んだときにはじめて、「戦国時代って面白い」と思うようになりました。
谷津 自分も歴史への興味は昔からありましたけど、小説への興味とは別ですね。小説家を目指そうと思ったのは、二十二歳のとき、一度は就職したものの、どうも普通の社会人には向いてないぞと悟ったんです(笑)。好きな小説なら仕事にできるかもとなって、デビュー前はSF、恋愛もの、ミステリーなど、色んなジャンルの小説を書き始めました。その中でたまたま歴史小説が認められてデビューしたという経緯でして。
木下 僕は高校時代から小説家志望だったんですけど、最初は歴史ものじゃない小説を書いていました。というのも、昔から司馬遼太郎先生の小説が大好きで、自分が司馬先生のように書けるとは、とても思えなかったんです。歴史小説を書き始めたきっかけは、京都で竹内流という古武道と出会ったこと。竹内流では、人を信用するな、生き残るためだったらどんな手を使ってもいいという考え方で成り立っていて、戦国時代の下克上に似ている。この竹内流の考えを書いたらオンリーワンになれると思って、試しに竹内流の開祖を破った戦国武将の宇喜多直家の話を書いたら、二〇一二年にオール讀物新人賞をいただけました。以来、与えられた場所で頑張ろうという思いで歴史小説を執筆しています。
今村 小学校五年生のときから、歴史、時代小説ばかり読んでいたので、自分が小説を書こうと思ったときに、ジャンルに関しては迷いはなかったですね。
川越 十年くらいサラリーマンをやっていて、ようやく生活が落ち着いてきたタイミングで、「新しい趣味でも」という軽い気持ちで小説を書き始めました。ただ、初めて書いたにもかかわらず結構自信があった作品で松本清張賞に応募したところ、あっさり落ちてしまいまして……。これは、頑張って書かないと、自分の作品が世に出ることはないなと思って、勉強して再挑戦した結果、『天地に燦たり』(文春文庫)が清張賞を受賞しました。
天野 僕も最初は新人賞に落ち続けましたね。それまで普通の歴史小説を書いていたんですが、大学時代にやっていたバンド活動、楽器演奏と歴史をくっつけたら面白いと思って、どの時代が合うだろうと探していくうちに安土桃山時代かなとなり、それを描いた『桃山ビート・トライブ』(集英社文庫)で小説すばる新人賞を受賞してデビューできました。
谷津 歴史小説に限らず、小説家の多くは新人賞を受賞して、その受賞作が本になることが多いと思うんですが、僕の場合、二〇一二年に「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞を受賞したものの、いまに至るまで書籍化されていないんです。
一同 えっ!?
谷津 題材が地味だったんでしょうね。「蒲生の記」というタイトルから、戦国大名の蒲生氏郷を描いた作品だと想像されるかもしれませんが、実は蒲生君平という、江戸後期の儒学者を描いてまして。
川越 メッチャ熱いじゃないですか。
谷津 熱いんですけど、誰も知らないという(笑)。その経験があるので、本として出版するには、ある程度のけれんみや派手さが必要だという風に考えて題材を選ぶ癖がつきましたね。
武川 派手かどうかは分かりませんが、私は合戦を書きたいと思って小説家になりました。合戦が強い大名って誰だろうと思ったときに、武田家が浮かんだので、それがデビュー作の『虎の牙』(講談社)へとつながっています。
川越 僕も合戦シーンは好きだけど、この前書いた短篇では、編集者から「合戦シーンはいらないのでは?」と指摘されてしまって(笑)。作品の題材を選ぶときって、ウィキペディアが意外と役に立つんですよ。気になる人や項目のリンクをずっとたどっていくことで面白い何かが見つかる。
今村 同じことしょっちゅうやってる(笑)。「こいつ、誰やねん」ってところまで調べていったり。
澤田 私の場合、古代を扱うことも多いので、ウィキペディアでは項目すらなかったりします(笑)。その代わりじゃないですけど、創作に役立つのは史料ですね。史料の中で、名前だけ出てきて、そのあと登場しない人っているじゃないですか。そういう人がその後どうなっているか妄想するのがすごく好きで。どの作品でも、歴史上チラッと出てくるけど、すぐに居なくなる人を取り上げようと思っています。
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