
ある一日
いつもと同じ朝。ベッドから出てタバコを一服吸う。朝食は、トーストとコーヒーで軽く済ませ、急いで仕度をして駅に向かう。
満員電車に小一時間揺られながら、暇つぶしでスマートフォンのゲームをする。ゲームをするようになってから、新聞や本を読むことがめっきり減った。
会社に着くと、いつものように山ほどの仕事が待っている。午前中だけで、何杯もコーヒーを飲み、喫煙所でタバコを吸う。昼食は、コンビニのおにぎりで済ませ、タバコを吸ってから仕事に戻る。
今日は金曜日なので、早目に仕事を切り上げて同僚と飲み屋に行く。なじみの居酒屋でビールとチューハイを量を忘れるくらい飲んだ後、もう一軒はしごしてから、ラーメンで締める。これがお決まりの金曜日の夜のパターンだ。そして、土曜日はいつも二日酔い。
こんな平凡な生活のなかに、依存症の落とし穴がたくさん開いている。依存症と聞くと、すぐに思い浮かべるのは、アルコール依存症や薬物依存症だろう。そして、ほとんどの人は「自分は酒はほどほどにしか飲まないし、薬物なんて絶対に使用しない。だから依存症などとは無縁だ」と思うかもしれない。
多くの人の依存症へのイメージは、ヘベレケになって手が震えているアルコール依存症者や、幻覚妄想状態になって意味不明のことをつぶやいたり、「ヤクをくれ!」などと叫んだりしている薬物依存症者の姿ではないだろうか。
しかし、これは極度にカリカチュア化された依存症者の姿であり、正直こんな人たちはほぼテレビのなかにしか存在しない。依存症者はそれよりはるかに多様であるし、そのハードルは意外と低い。また、それは一種のグラデーションのように連なっており、今は安全であってもいつしかその深みにはまることがあるかもしれない。
それだけではない。先ほどの平凡なサラリーマンの一日を見ると、喫煙、コーヒー(カフェイン)、炭水化物(糖質)、スマホゲーム、仕事、さらには、SNS、パチンコ、買い物、セックスなど、われわれの身の周りは、依存症のリスクであふれている。