- 2021.03.15
- コラム・エッセイ
この春、心揺さぶる大人の青春小説
聞き手:文春文庫編集部
『この春、とうに死んでるあなたを探して』榎田ユウリさんインタビュー
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
ジャンルに縛られない作家人生
――20年間、小説を書き続けられたのはなぜだと思いますか?
榎田 当たり前のことですけど、ずっと支えてくださった読者さんがいたというのが一番ですね。ものすごく苦労して書いたとか、どうしようもないスランプがあったとか、そういう心揺さぶるエピソードは残念ながらなくて(笑)。もちろん、多少は大変なこともあったような気もしますが、喉元すぎると忘れちゃうんですよ……。基本的にはずっと楽しくお仕事をさせていただいた20年でした。幸福な作家人生だと自分でも思います。
――デビューした頃と今で何か変わった点はありますか?
榎田 やっぱり書くスピードが遅くなりましたね。かつては年間10冊とか書いていたんですが、今はとても無理です。これも善し悪しで、それなりに経験や知識が蓄積してくると思い切りや勢いはなくなりますけど、その分慎重に書けるようになったと思います。と言うか、思いたいです。
――20年の中で印象的な出来事があったら教えてください。
榎田 デビュー作の〈魚住くん〉シリーズを3度にわたって出していただけたことはすごく感慨深いし、非常にありがたいことだと思います。それぞれ出すごとに「懐かしい」と言って読んでくださる方がいるのと同時に、新しい読者さんにも出会えました。
――ホラー、ミステリー、ファンタジー、青春部活ものまで本当に多岐にわたって作品を書かれていますが、榎田さんはご自身をどのような作家だと思っていますか。
榎田 「自分はこういう作家だ」と言うのはなかなか難しいのですが、たくさんのジャンルがあることについてはBLを書いていたことが大きいですね。もちろん、作家さんによって違うと思いますが、基本的にBLは男性同士の恋愛が主軸にあれば、あとは自由度が高くて。BLを書いてるときから、様々な方法を試みていました。いつも同じようなテイストだと読者さんが飽きてしまうだろうと思っていたのもあります。でも手を変え品を変え頑張っているつもりですが、出来上がってみるとどうしても同じカラーが滲み出てしまいますね。ガラリと変わった作品も書いてみたいです。
ドラゴンが飛んでいるようなファンタジーを書きたい
――榎田さんのSNSアカウントでは、時々創作についての質問をフォロワーから集めて、お答えされていますね。
榎田 ここ何年か、プライベートで小中学生に作文を教えるという機会がありまして、それがとても楽しかったんです。その延長でツイッターでも、若い方に向けて創作に関するアドバイスをしてみようかなと。
試験対策とか、仕事で必要だとか、文章を書く動機も色々あると思いますが、そういった実用的な理由以外に、私は文章を書くことは、ある種の逃げ場になり得ると思っています。もし現実をしんどいと感じているのなら物語の世界に逃げればいいし、読むだけじゃなくて自分で創作することに楽しみを見つけることで、自身を励ましたりもできるのではないか。いまセンシティブな時期を過ごしている人の中に創作をよすがとしている人がいるとして、私がそういった人たちの質問に可能な範囲で答えられたらと考えています。
昔は人にものを教えることに恥ずかしさや変な構えがあってできなかったんですけど、自分もいい歳になって、人の役に立てるのならば、それを躊躇う必要はないんじゃないかと思えるようになりました。
――今後の展望や挑戦したいことはありますか?
榎田 なかなか着手できないのですが、世界観をイチから作るようなファンタジーを書いてみたいというのはあります。『宮廷神官物語』もファンタジーですが基本は人間ドラマなので。ドラゴンがブンブン飛んでるみたいなスケールの大きいファンタジーに憧れますね。
――最後にメッセージをお願いします。
榎田 『この春、とうに死んでるあなたを探して』をまた文庫の形でお届けできることができて大変ありがたいです。物語そのものは変わっていませんが、結構手直しをしましたので、読者さんが受け取られるニュアンスは大分変わるんじゃないかなと思っています。ミステリの体裁をとってはいますが犯人探しをするのではなく、キャラクターの背景に何があったのか、といったところを気にしながら読んでくださると嬉しいです。書き下ろしではある秘密が明かされますよ!
デビュー20周年に際して、直接皆さんのお顔を見て感謝を表すことができたらよかったのですが……。でも別に20周年じゃなくても、21年目でも22年目でも、そういった機会が作れたらと考えています。20年が長いのか短いのか自分でもよくわかりませんが、まだまだ書きたいものはあります。この先も続けられるように精進したいと思いますので、よろしくお願いします。みなさんもお体に気をつけて、すてきな春をお迎え下さい!