緻密すぎる構図や大胆すぎる題材など、新たな手法で周囲を圧倒した天才画人・伊藤若冲(いとう・じゃくちゅう)。いったい何ゆえにあれほど鮮麗かつ繊細、奇抜な構図の作品を世に送り出したのか――18世紀の京都を舞台に同時代に活躍した芸術家の池大雅、円山応挙、売茶翁ら、そして若冲を終生支え続けた相国寺の和尚・大典との交流を主軸に、謎に包まれた唯一無二の画師の実像が、NHK正月時代劇「ライジング若冲 ~天才 かく覚醒せり~」として、初めて本格的にドラマ化される。
中村七之助(若冲)、永山瑛太(大典顕常)がW主演を務め、中川大志(円山応挙)、大東駿介(池大雅)、門脇麦(池玉瀾)、石橋蓮司(売茶翁)ら豪華な出演陣にも注目があつまる話題作について、作・演出を手掛けた源孝志監督に見どころを聞いた。
若冲と大典和尚は男同士の恋愛関係!?
――「奇想の画家」と呼ばれ、老若男女を問わず人気の高い伊藤若冲ですが、エンターテインメントとして初めて本格的にドラマ化するにあたって、どのようにストーリー作りをされたのでしょう?
源 若冲は何といっても人気が出すぎているので、僕のようなひねくれ者は代表作を知っているという程度だったんですが(笑)、今回、改めて色々な史料を読み漁り、この精緻な絵をかいた画家を主人公にして、どんなドラマを作れるのか考えたんです。
その結果、若冲が活躍した時代というのは大きな戦乱もなく、いわばイタリアのルネサンス期のような、京都にもアートサロンのようなものが大典を中心にして形成されていたことが分かってきました。実際、若冲の住居エリアに近い場所に、円山応挙、池大雅・玉瀾夫妻、与謝蕪村らが一時期住んでいて、そういった彼らに影響を与えた人物として、謎の多い人物ですが売茶翁がいます。美意識が高く、芸術センスが高かった彼らとの交流を通して、若冲の天才性が覚醒していったということを感じてもらえたらと思いました。
特に若冲、大典のふたりはそろって長命。80歳過ぎまで生きていて、若冲が死んだ半年後くらいに大典が亡くなっています。最愛の相手が亡くなって、そのあとを追うようにもう片方も死んでしまったというか、それも含めて単なる友人関係ではない感じがして――もともと若冲は物堅くて、真面目で、信心深い、破たんのない人物だと言われていますけれど、今回は大典和尚と精神的に恋愛関係にあったんじゃないか? 揃って女嫌いの美坊主と3歳年下の芸術家が、強く惹かれ合う関係の片鱗を見せるというか、心の絆の部分を膨らませてドラマにしました。
ただ二人とも長生きなのでどこかをピークにしないと、とても75分には収まらない。それこそ大河ドラマでもないとむりですから、せいぜい10年くらいを切り取らないといけないのが辛いところでした。そこでだいたい40~50歳で若冲が描いた代表作であり、大典が住持を務める相国寺に寄進された「動植綵絵」を描いた時期に絞ることにしました。要するに若冲は最愛の誰かのためにこの絵を描いたということなんですけれど、この設定が果たしてどんなお叱りを受けるかと戦々恐々としています(笑)。
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