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16世紀、「世界史」はいかにしてはじまったのか

16世紀、「世界史」はいかにしてはじまったのか

玉木 俊明

『16世紀「世界史」のはじまり』(玉木 俊明)

出典 : #文春新書
ジャンル : #ノンフィクション

『16世紀「世界史」のはじまり』(玉木 俊明)

 これらの世界は、中世には別々の「世界」として存在し、一部の商人たちが行き来するのみだった。しかし、16世紀には、ヨーロッパで開発された火縄銃が、日本統一に重大な役割を果たし、キリスト教宣教師たちがマニラや長崎など、アジアに拠点をもって武装したりする状況が生まれた。こう考えるなら、いま私たちが思い浮かべる「世界史」というものは、まさに16世紀に生まれたといってよい。ヨーロッパ人は、自国船でアジアから香辛料を輸入するようになったのである。それ以前は、アジアの人々の船で輸入していた。ヨーロッパに直結する交易ネットワークが大西洋、インド洋に接続され、全地球的なものへと変貌したのだ。

 しかしながら、この点の重要性は、これまでの歴史学界であまりに軽視されてきたといわなければならない。言い換えるなら、世界史におけるイタリア、そして地中海の位置づけが過大評価されてきたことにもなる。

 ここで、香辛料貿易を例にとってみよう。いわゆるルネサンス期前後のイタリアは、東南アジアのモルッカ諸島からアジア商人──その主流はムスリム(イスラーム教徒)──がアレクサンドリアまで輸送していた香辛料を、ヨーロッパ内部で流通させたにすぎない。イタリア商人はいわばヨーロッパ・ローカルであり、彼らが、直接モルッカ諸島まで買い付けに行ったわけではないのだ。

 このイタリア型の交易システムでは、価格の決定権はアジア側にある。商品の価格は、確かに需要と供給によって決定されるが、そこに買い手と売り手の複雑な力関係が働くのは、昔もいまも変わらない。

 中近世において、ヨーロッパ人が消費した香辛料は、世界全体のおよそ30パーセントといわれる。それは、世界市場にとって「きわめて重要」というほどではないであろう。ヨーロッパが買わなくとも、アジアの香辛料ビジネスは成り立つ。ヨーロッパ人は香辛料を欲していたが、その供給元は東南アジアしかなかった。さらに重要なのが輸送インフラである。輸送ルートの大部分をアジア人が担っており、それに代わる手段がない以上、価格はアジア人が決定したと考えられよう。ヨーロッパ人は、自分たちが欲する商品を、おおむねアジア人が決定する価格で購入するほかなかったことになる。

16世紀「世界史」のはじまり
玉木俊明

定価:968円(税込)発売日:2021年04月20日

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