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戦国時代を生きた名もなき人々の戦い――『千里をゆけ』(武川 佑)

戦国時代を生きた名もなき人々の戦い――『千里をゆけ』(武川 佑)

「オール讀物」編集部

Book Talk/最新作を語る

出典 : #オール讀物
ジャンル : #歴史・時代小説

生々しく蠢く人間の欲望がここに
『千里をゆけ』(武川 佑)

 武川佑さんの新作『千里をゆけ』は、生々しく蠢く人間の欲望をあますところなく描き切った意欲作だ。

「戦国時代は信長や秀吉などのキャラの立った武将が活躍するイメージが強いですが、実はその大部分は組織対組織の戦いなんです。ところが室町時代を調べると、個人のオリジナリティがより際立っていることがわかってきました。個々の意志で大きく歴史が動く最後の時代と言ってもいいかもしれません。調べを進めるうちに、足利義教という室町幕府六代将軍に出会いました。彼は強権的な政治を推し進めて、その結果暗殺されています。一方で、彼は文化の庇護者でもあり、ただの暴君でない一面も見えてきた。心の中に大きな矛盾を抱えた人なのではないかと感じ、興味を持ちました」

 物語は、京にほど近い坂本で始まる。峠の茶屋で給仕をする小鼓は、ある日突然すべてを失ってしまう。高僧・青蓮院義圓(のちの将軍・義教)が、故郷坂本の町を焼き払ったのだ。義圓は小鼓の父を追って、坂本までやってきたらしい。父を守ろうとした小鼓は、片腕を斬り落とされてしまう。この出来事をきっかけに、交わるはずのなかった二人の運命が交錯する。

「歴史小説が歴史的人物の二次創作になってしまうのはもったいないので、そうではない小説を書きたいと思ってきました。歴史は英雄や名を残した人々だけのものではない、というのが私の考えです。現代と地続きであるならば、つましく暮らしていた人、虐げられた人もいたはずです。この小説の主人公の小鼓は、名もなき人々の象徴であり、虐げられた人々の最大公約数的存在でもあります」

 デビュー作『虎の牙』では合戦シーンが高く評価され、同作は歴史時代作家クラブ賞新人賞を受賞した。今作でも、合戦シーンは大きな読みどころ。

 小鼓は片腕を失いながらも、兵法の才能を開花させることによって、戦場を駆け巡る。すさまじいまでの臨場感を感じさせてくれるのは、武川さんの世界観が凝縮された場でもあるからだ。

「戦場は何かを力ずくで決める一大セレモニーの場ではないでしょうか。人間の根源的衝動がむきだしになっている場所なんです。生きるか死ぬかは常に紙一重。戦場にはある種の平等さがあって、そこに魅力を感じます。かつて確実に存在した生命のきらめきを感じたくて、私は歴史小説を書いているのかもしれません。そういう思いを小鼓に託したので、小鼓と一緒に冒険したり生活したりする気持ちで読んでもらえたら嬉しいです」


たけかわゆう 一九八一年神奈川県生まれ。書店員、専門紙記者を経て、二〇一七年『虎の牙』でデビュー。同作で第七回歴史時代作家クラブ賞新人賞を受賞。第二作『落梅の賦』も話題に。


(「オール讀物」5月号より)

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