- 2021.05.24
- インタビュー・対談
<堂場瞬一インタビュー>「父子の葛藤」というテーマについての、作家生活20年目の結論。
聞き手:第二文藝部
『赤の呪縛』(堂場 瞬一)
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
警察小説やミステリー、スポーツ小説など、多彩なジャンルを描いてきた堂場瞬一さん。「数年に一度、どうしても描きたくなる」というテーマが、「父子の葛藤」だという。作家生活20年という節目に、最新刊『赤の呪縛』で、著者がたどり着いた「父親殺し」をめぐる結末とは。
父親に立ち向かった男の『リアルな結末』を描いた。
「20周年の記念の年の発売に向けて、『オール讀物』で連載をすることになったときに、『父と子の諍い』を書こうという発想がありました。設定は、マフィアの父と、その息子でもいいかな、と考えたのですが、日本を舞台にして書く小説としてはリアリティがない。だとすれば、警察小説でいこう、と」
物語の舞台は、東京の銀座と静岡。銀座の高級クラブで放火事件が発生し、女性オーナーと容疑者の女が命を失った。主人公である警視庁捜査一課の刑事・滝上亮司が、事件の関係者を洗うと、背後に、政治家である父親の存在が浮かび上がってきた。かつて父親を憎んだ刑事は、「封印した過去」と向き合うが……。
「父と子の相克というテーマは、古典も含めて描かれることも多いですし、わたしも、数年に一度、書いてみたい、という気持ちが湧きあがってきます。今回取り組んでみて感じたのは、決着をつけるのが難しいテーマだなぁということです。50歳を超えて、この年齢になると、自分は親の立場でもあり、息子の立場でもありますからね。もっと分かりやすいラストも考えましたが、それではどうしても『小説臭く』なってしまう。熟考した結果、『こう落ちていくしかない』というエンディングになりました。私が考える、父親に立ち向かった男の『リアルな結末』です」
『家族、肉親、家という存在は、そんなに大切なものですか?』
主人公の滝上亮司は、静岡出身。父親は静岡県選出の代議士を経て、県知事を務めている。地元後援会の幹部や支持者から、「後継者」としての期待を注がれながらも、滝上は「政治家の一族」というしがらみに反発し、道を踏み外してしまう。
「今回、静岡に改めて取材に行きました。とても近代的でありながら、綺麗な街で、人が穏やかに暮らしている街であることも実感しました。そんな場所でも、『人の欲望』は渦巻いていて、それを吸い上げるのが、知事である父親だった。滝上は、『故郷』や『家』『過去の過ち』から逃れるために、警察という組織に逃げこんだ男です。
実は、『オール讀物』連載時は、『延焼』というタイトルだったんです。滝上という刑事の捜査が、一人の関係者に火をつけ、それが蜘蛛の巣を広げるように、周囲に火をつけていく、というニュアンスを込めて。さらには、この事件が、彼の中に燻っている『捨てた過去』をあぶりだす、という意味合いがありました。
単行本のタイトルの『赤の呪縛』における赤とは、人の身体にながれているものです。人と人とを『繋ぐ』と同時に『縛る』ものでもある。『家族、肉親、家という存在は、そんなに大切なものですか?』という、私からの問いかけでもあります」
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