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第100回受賞者・高瀬乃一さんが語る「オール讀物新人賞への道」

第100回受賞者・高瀬乃一さんが語る「オール讀物新人賞への道」

「オール讀物」編集部

青森県三沢市在住の高瀬さんが、デビューし、受賞第1作を完成させるまで


ジャンル : #歴史・時代小説

第101回を迎える今期より、募集ジャンルを特化したオール讀物“歴史時代小説”新人賞。締切がひと月後に迫る中(6月20日受付締切)、昨年の第100回を時代小説「をりをり よみ耽り」で受賞した高瀬乃一さんが、受賞第1作となる「板木どろぼう」をオール讀物6月号に寄稿した。

「板木どろぼう」が掲載されているオール讀物2021年6月号

受賞作の舞台は、文化年間の江戸浅草。女手ひとつで貸本屋を営む〈おせん〉の奮闘を描く“ビブリオ捕物帖”だった。新作も、このおせんが縦横無尽に活躍するシリーズ作。得意先の版元でおきた滝沢馬琴の新作盗難事件におせんはどう挑むのか? 江戸後期、盛りを迎えた読本文化の楽しさと、捕物帖の面白さをともに堪能できる力作だ。

◇ ◇ ◇

――新作を書き上げた心境はいかがですか。

「貸本屋おせん」をシリーズにできたらいいなと思って、一生懸命に書きました。同じ主人公が活躍するわけですから、当然、「をりをり よみ耽り」と「板木どろぼう」とでキャラクターの軸がぶれてはいけない。だけど、受賞作の世界観を引きずりすぎて、完全な“続編”を書いてしまったら、今回、初めておせんと出会う読者の方は戸惑いますよね。おせんの内面も、家族の背景も、私の中ではしっかりできているんですけど、それを書きすぎないようにセーブして、むしろ馬琴の新作を彫った板木が盗まれるという事件の面白さを書くことに心を配りました。その書き方のバランスに苦心して、何度も手を入れましたね。

おせんの活躍を描く「板木どろぼう」の挿絵 ©中川学

――新人賞の世界では「デビューよりも書き続けることが難しい」と言われます。

言葉の意味を、日々、実感しています。最大のプレッシャーは、受賞作よりも面白いものを書かないと雑誌に載せてもらえないこと(笑)。もっともっと勉強しなきゃという焦りはつねにあります。ようやく1作書けてホッとしたのと、また次作を書かねばならない重圧と、いまは半々くらいの気持ちですね。

――青森県三沢市で暮らす高瀬さんが新人賞への応募を始めたのは、ちょうど10年前。東日本大震災が背中を押したそうですね。

40歳になる直前のことでした。たまたま三女が生まれた翌年に、東日本大震災を経験しまして。人間いつ死ぬかわからないなと感じ、ちょうど人生の折り返し地点だし、悔いのない生きかたをしようと小説を書き始めました。三沢って何もないところで(笑)、子育てで外にも出られないし、私自身もちょっと病気をして家にいる時間が長くて、時間を見つけてはパソコンに向かいました。まったくの独学で、それこそ漢数字と算用数字をどう書きわけるのかもわからないところから、ひとつひとつ自分なりに調べて書いていきました。

――オール讀物新人賞への投稿は、全部で5回だと聞きました。

最初に出したのはファンタジー作品で、これは一次にも残りませんでした。2回目に応募した、母と年頃の娘を描いた現代小説(「彼女たちのいくところ」)で最終候補(第97回)に残りましたが、評価はボロボロ(笑)。その次に、男の人が女性に騙される不倫の小説を出してまったくダメで、急転直下、舞台を明治に変えた「ひとぼしごろ」で2度目の最終候補(第99回)に。その翌年、時代小説の「をりをり よみ耽り」で賞をいただいたという流れです。

――作風や題材をどんどん変えているのはなぜですか?

深い理由はなくて、書いてダメだったから違うものにしようと。別の主人公を書いてみよう、思い切って時代を変えてみよう、とチャレンジしていったわけです。

最終候補に残ると、選考委員の先生に選評を書いてもらえるじゃないですか。「彼女たちのいくところ」では、池井戸潤さんの選評が印象に残っていて、「読みにくい」「文章表現にしても、凝りすぎて意味がわからない」「もっとわかりやすく」と、要するに、全然ダメということなんですけど(笑)。当時の私は、純文学とエンタメの区別が存在することも知らずに応募原稿を書いていまして、けっこう小難しい比喩とか使ったり、感情を延々と説明したりしてたんですね。指摘されて初めて、もっともっと簡潔に、伝わる文章を書かないといけないんだな、とわかった。読む人の気持ちを考えるようになったのが、ひとつの転機になったかなと思います。

また、時代小説を書くきっかけをもらったのは、編集者のアドバイスでした。「彼女たちのいくところ」が落選した後、いまオールの編集長をなさっている川田さんからメールをもらいまして、

『宇喜多の捨て嫁』の木下昌輝さんは最初は現代ものを書いていたが、歴史小説に路線を変えて活躍されている。高瀬さんもそういう道を考えてはどうですか?

こういう趣旨の言葉をもらったんですね。何かしら私の書く文章の中に時代小説に通じるものがあったのかなと思い、「挑戦しよう」という気持ちになりました。そんな折、たまたま地元紙の「デーリー東北」で、「糠部三十三観音」を特集した連載記事を読んだ。明治期のちいさい祠がいまも残っているというエピソードに惹かれ、資料を調べて、あっというまに「ひとぼしごろ」の構想を思いつきました。

オール讀物2021年6月号

文藝春秋

2021年5月21日 発売

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