- 2021.06.04
- インタビュー・対談
少女はなぜ脱獄犯と瀬戸内海の島を出たのか――『ひきなみ』(千早茜)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
瀬戸内海の島で出会った少女たちの友情
千早茜さんの最新作『ひきなみ』は、瀬戸内海の小さな島と、対照的な東京とを舞台に、少女たちの痛みをともなう成長と人生を描く。
小学六年生の葉(よう)は、東京の親元を離れ、瀬戸内海の島に住む祖父母の家で暮らすことになる。そして、島へ向かう高速船の中で出会った少女・真以と心を通わせるようになっていく。
「姉妹ものとか、女性同士の関係性を描いた作品を依頼されることが多くなりました。でも、どうしてもドロドロしたものを求められて、女性同士の間に真の友情は成り立たない、と思われているようで嫌でした。葉と真以は腹の底での尊敬と信頼がある。嫉妬って、相手を自分と同じ存在と思うから生まれるけれど、彼女たちはそれぞれ独立しているんですよね」
父親の病気で、実の母から遠ざけられ、島でも孤立する葉と、祖父とふたりで暮らす真以。彼女たちは島で生きるが故の孤独を抱えながらも、決して依存しあわない。だが、真以はある時、島に潜伏していた脱獄犯の男と姿を消してしまう。
「真以は、人に手を差し伸べることに躊躇がなく、困っている人は放っておけない。でもそんな純粋さがいい方向へ向かうばかりではないと思います」
真以の行動に傷ついた葉は、島の思い出の品をすべて捨て、東京へと戻る。やがて大人になった葉は、上司から執拗なハラスメントを受けてしまう。
「都会にも“島”はあって、そこでも一番弱いものが狙われるんですよね。いま、女性は弱い立場にありますし。葉は女性だからハラスメントを受ける。でも葉のほうも、男性に対して猜疑心があるわけで、性別で相手を判断してしまっているんですよね」
その反撃方法として、ネットリンチを企てる後輩にも、葉はとまどう。
「それで気は済んでも、根本的な解決にはならない。自分の性格的には目に見える解決が好きですけど、現実にはそういう人にわかりやすいバチが当たることってほぼないじゃないですか。だから対抗するには、楽しく生き抜くことだと思います。ささやかな抵抗を重ねていくしかないんです」
苦しみながらも続けた仕事をきっかけに、ネットで真以を見つけた葉は、封じ込めた過去と向き合うが――。
「『ひきなみ』というタイトルは、最初から考えていたものでした。波のようにすぐに消えてしまっても、残っている跡がいっぱい続けばいいというささやかな希望を託しています。最後のシーンを描きたくて、葉の視点で物語を進めましたが、そのときの真以の心情は読者の方の想像におまかせします」
ちはやあかね 二〇〇八年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞。〇九年同作で泉鏡花文学賞、一三年『あとかた』で島清恋愛文学賞、二一年『透明な夜の香り』で渡辺淳一文学賞を受賞。
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