乙川優三郎さんの最新作『ナインストーリーズ』が発売されました。
オール讀物新人賞でデビューされ、『生きる』で第127回直木賞を受賞するなど時代小説で活躍された著者はその後、現代に小説の舞台を移して『脊梁山脈』で高い評価を受けました(第40回大佛次郎賞受賞)。他にも『太陽は気を失う』で第66回芸術選奨文部科学大臣賞、『ロゴスの市』で第23回島清恋愛文学賞を受賞するなど、端正な言葉を紡いだ小説を支持するファンが多くいます。
今回の作品は、人生の黄昏を迎えた人々に光を当てた9つの物語。老若男女を問わずお勧めしたい一冊です。
全国の書店員さんからの声をお届けします。
山中真理さん(ジュンク堂書店滋賀草津店)
人それぞれ一筋縄ではいかない道を歩いてきて、あの時こうしていたら、あの頃の青さを微笑んだり、まぶしかったり、思いかえし、今ある自分を生きているんだなあと、しみじみ思いました。
本音がくすぶりから爆発してもいい、胸に秘め続けてもいい、著者の紡いだ心情が絶妙で、自分もそうだったんだと気づきがありました。
この短篇集は自分がそうであるように、読む人の今までの自分、これからの自分を優しく温かく寄り添い、見守り、包みこんでくれる作品だと思いました。
人生ってままならないから、苦しくもあり、愛しくもある。
この作品を読めて、もやもやしていた気持ちが少しふっきれたように思いました。
清野里美さん(BOOKSえみたすピアゴ植田店)
小説というより美しい文章でつづられた文学でした。
不惑の歳は過ぎているけど、人生の黄昏に少し早い私には楽しめました。人生の黄昏を迎えた心身の揺れを鮮やかに描きだされて読後の余韻に浸れ良かったです。男女の物語も良かったけど、女同士の「パシフィック・リゾート」が好きです。
久田かおりさん(精文館書店中島新町店)
ここにある9つの人生が、その黄昏の切実さが私のすぐそばを流れている。
前だけを見つめて走り続けていられる時間の尊さよ。
いくつも超えてきた山を、渡ってきた谷を、進んできた岐路を振り返ったときふと、不安に思うことがある。
これで正しかったのだろうか、と。これが私の選んだ道なのか、あの時、夢見た未来なのか。
もしあのとき目の前にあった別の手を選んでいたら、もしあのとき、もし……。
いくつも浮かぶ「もし」を、何度も繰り返す「もし」を自分の中に取り込んで私たちは歩いていくのだ。
今日踏み出す一歩が、昨日の一歩を塗り替えていく。
一筋縄ではいかない男と女。ままならないその人生の、乙川優三郎が描くモノクロの世界を面白いと思える自分の人生を思う。
山口智子さん(三洋堂書店新開橋店)
九人九様の人生の折り返し地点からの生き様が妙に身につまされた。人生の黄昏時を迎えた男性にとってはホラー小説とも言えるのではないでしょうか(笑)。
老若男女問わず、それぞれの感じ方で人生の向き合い方をあらためて考えるきっかけになる本だと思います。
「闘いは始まっている」と「海のホテル」が特にお気に入りです。しっかり生きなさい! と人生の先輩から喝を入れられ、背筋が伸びるような気持ちになりました。
松本優子さん(紀伊國屋書店佐賀店)
綾なす物語に共通しているのは千佳子の「自分ひとりの幸福を求めて終わる一生はちっぽけすぎて虚しい」という言葉ではないかと感じました。身勝手に生きた人生の代償がゆっくりと近付いてくるのが一層さみしく、哀しさを感じます。一方、大切な人との別れを経て新たな出発を決意する女性(男性も)のなんと美しいことか。特に「あなたの香りのするわたし」が大好きです。長く母親として生きてきた女性が、一人の女として男性に惹かれ、迷い、新たな飛翔を遂げる様が本当に素敵でした。
恋愛小説が実は苦手なのですが、大人の男女のそれぞれの人生を生きてきたからこその他愛のないやりとりが可愛らしく、共に生きていきたいという覚悟に胸が熱くなりました。哀しみも憤りも喜びも美しい情景に包まれて昇華されていくよう。乙川先生の現代小説は初めてで、有難く拝読させていただきました。ありがとうございました!
田中由紀さん(明林堂書店フジ西宇部店)
9つの物語の中にあなたはいるかも知れない。
人生の折り返し地点に立った時、自分の歩んだ道が正しいか不安になった人、まだまだ満たされていない人はこの物語を読んで欲しい。
道しるべになるに違いないから。
中目太郎さん(HMV&BOOKS OKINAWA)
今までの人生は登り坂のようなものだった。しかし、折り返し地点を過ぎた今では下り坂の人生だ。通ってきた道を戻るように、見たことのある景色や、以前感じた思いが別の側面をあらわすようになる。
年をとって様々なものに懐かしさや苦しさを感じることが多くなったが、それらもまた今しか感じることのできない思いなのかもしれない。
来た道を戻る景色を、懐かしくも新鮮に描いた作品だ。
齋藤一弥さん(紀伊國屋書店仙台店)
ここに描かれている九つの物語。その一つが数十年後の私の姿かもしれない。もしくは十個目の物語になるかもしれない。
熟年を迎えた男女の関わりは、愛だ恋だと謳う若者たちとはまるでステージが違っていた。その歳になって見える価値観であったり心身のコンディションが呼び名も分からない関係性を築いていた。
ハッキリ言って理解や共感ができるものではなかった。それはけっして面白くないとかそういう事ではなく、その領域にまだ自分が達していないという意味で。
三十年後、四十年後にこの作品とシンクロするような事が起こった時に「壮大な伏線回収だ」と苦笑いしている自分を想像するとこれからの人生や出会い、再会が楽しみになります。
年相応の楽しみ方がある作品と感じました。
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