この“無敵のオバサン”お二人の馴れ初めは、23年前のこと。NHKの朝の連続ドラマ「ふたりっ子」が大ヒットし、一躍、売れっ子脚本家として名を馳せていた大石静さんを、「週刊文春」の連載対談「阿川佐和子のこの人に会いたい」のゲストとしてお招きしたのがきっかけである(1997年3月6日号掲載)。私は当時、このコーナーの担当であった。
今でも印象深いのは、対談が掲載されるのが「ふたりっ子」の最終回より前であることを承知の上で、大石さんが躊躇うことなく、ドラマの結末を明かしたことだった。
「全部喋っちゃうことに抵抗ないんですか」と驚く阿川さんに大石さんは、「『先を知ったからって、つまんなくなるようなドラマじゃない』って思ってるわ」。阿川さんも私も その潔さに、大いに感じ入ったのであった。
対談ではユニークな夫婦関係、恋愛論にまで話がおよび、大石さんの語りは人を惹きつけて止まないものがあった。希代のヒットメーカーは、優れた語り手であることを発見したのである。
そこで、この3ヵ月後、「『阿川佐和子のこの人に会いたい』連載200回記念トークショー」にも、大石さんに登場いただいた。
大石さんはここで、「『週刊文春』の対談を読む限りでは、阿川さんってあんまり喋らないのかと思っていたけど、実際に会ってみると、とっても話がお上手なのね。ふだんは担当編集者がゲストの話を多く入れようとして、阿川さんの部分を削ってたんだと分かりました。もっと阿川さんの話を盛り込んだ方が、面白いページになるのに……」と切り出された。
大石さん、なんて鋭いんだ……私は叱られたような気持ちになり、冷や汗を搔いたものである。
この後、私は「週刊文春」から異動したが、阿川さん、大石さんとは、その後も交流が続いた。
阿川さんとは折々に食事を共にしたり、拙宅の正月の宴にお越しいただき、座を盛り上げていただいた。阿川さんは大の子ども好き、というか子どもと対等にコミュニケーションできる人である。我が家に来ていた3歳くらいの子どもと、まるで友だちであるかのように遊び、あっという間に仲良しになってしまったのだ(この日の阿川さんは大人の話にはほとんど加わらず、ひたすら子どもと遊んでいた……)。
話は横道に逸れたが、そんな交流が続くうち、私が阿川さんの大ベストセラー『聞く力 心をひらく35のヒント』(文春新書)を担当することになった。
美食家である大石さんは、ゴハンをご一緒すると、「あー、美味しかった、幸せだわー」「このワイン美味しいわね、幸せだわー」の「幸せ」連発で、こちらも「幸せ」な気持ちにしてくれる。そして、大石さんオリジナルの“いい俳優の条件”は斬新で、某役者をなぜドラマに推したのか、などの説明は、実に刺激的であった。大石さんの見立てでは、男でも女でも、人気の出る人には、「透明感」があるのだという(阿川さんにもあるそうだ、本書第7章参照)。
お目にかかる度に、大石さんの才能を活かした面白い企画ができるに違いない、と確信しながらも、なかなか実現できずにいた。
やがて『聞く力』のあとも、『叱られる力 聞く力2』『強父論』とヒット作が続く阿川さんと、「次はどんな本にするか?」と相談するうち、テレビの収録で大石さんと久々に再会し、大いに話に花が咲いたことを聞かされたのである。「次は大石さんとの対談本にしたら、面白くなるわよ」と。
こうして生まれたのが本書である。お二人の対談はだいたい1回2時間、それを8回ほど重ねたわけだが、その間、阿川さんの父上(弘之氏)が亡くなられ、また阿川さんが還暦過ぎて結婚されるという、思いもかけぬ(失礼!)事態も起きた。そのお蔭で、ホットな話題を盛り込むことができた。
実は本書の打ち上げの席で(大石さんはやはり「幸せだわー」を連発されていた)、次の企画も話題になった。まだ内容は明かせないが、実現すればきっと、本書に負けず劣らず有意義なものになると思っている。
乞うご期待! である。