口コミで大ヒットとなった〈マカン・マラン〉シリーズをはじめ、心震わす人間ドラマの書き手として支持を集める古内一絵さんの新刊『星影さやかに』に、全国の書店員さんから熱いメッセージが届いています!
戦争とは、平和とは、家族とは、生きるとは……読後、深い余韻が残る作品
――ブックセンターササエ古川駅前大通店 大友さん
家族でいる時間が多い今だからこそたくさんの方に読んでほしい
――ブックセンター湘南栗原店 中村さん
家族だからこそのもどかしさや愛が、じんわり心に届く静かで力強い物語
――明林堂書店大分本店 多田さん
田舎の名もなき家族の物語をドラマチックに描き出す古内一絵さんの筆力に脱帽
――ブックスなにわ仙台泉店 遠藤さん
『星影さやかに』は、宮城県古川町(現大崎市)の旧家を舞台に、戦中戦後の激動を生きた親子の姿を描いた家族小説ですが、なんと主人公・良彦とその家族は古内さんの家族がモデル。
どのようにして『星影さやかに』は生まれたのか、ご家族の思い出から歴史への向き合い方、デビュー10周年のことまで、古内さんが真摯に語ってくださいました。
“いつか失われてしまう記憶”を書き留めたい
――なぜご自身の家族をモデルにした作品を書こうと思われたのでしょうか。
古内 私の両親ももう80代ですし、日本全国でも戦中戦後を知る人はどんどん減っていますよね。いま戦争を体験された方の話を聞いておかないと、その記憶は永遠に失われてしまう、手遅れになってしまうと感じたのが大きいです。小説家になって以来、“いつか失われてしまう記憶”を物語として書き留めたい気持ちはずっと持っていましたので、今回は私の家族の経験を通して戦中戦後を書いてみようと思いました。
――これまで、ご家族から戦中戦後の話は聞いたことはありましたか?
古内 良一のモデルとなった祖父がずっと抑うつ状態だったことは母から聞いていました。なぜうつになってしまったのかと訊くと、戦時中に「日本は戦争に負ける」と生徒に言って、教職を罷免されてしまったらしいと。それはすごい人だなと印象に残っていたんです。
父(主人公・良彦のモデル)からも、夜な夜な家の前で「あいつは非国民だ。馬鹿野郎!」と怒鳴る人がいたと聞きました。父は猟銃を抱えて「鬼畜米英を打ち殺す」と言い回るような近所のおじさんに憧れていたので、非国民のうえ、今で言う引き籠りになった祖父のことは恥ずかしくて嫌いだったと言っていました。ただ一方で、なぜ反戦思想を生徒に言ったのだろうと不思議に思う気持ちもあったみたいです。
――古内さんは東京のご出身ですよね。古川とはどのようなつながりが?
古内 小学生のとき、毎年お盆休みには古川にある父の実家へ連れていってもらいました。ずっと広がる田んぼの上を赤や黄色の蜻蛉がすいすいと飛び、夜になると蛍が飛んでいて素敵な風景だったのを覚えています。私にとって古川はまさに“心の故郷”です!
――古川の方言や文化も印象的ですね。
古内 そこは正確に書きたかったので、昔の風俗や方言について両親に相当聞きました。なかでも第三話に出てくる葬式の「野辺送り」は、東京人の母が「あまりに幻想的だったので、カルチャーショックを受けた」と言っていたのが忘れられず、どうしても書きたくて……! 雪の中、本当に墨絵や映画の中みたいに美しく忘れられないお葬式だったと。そうは言っても記憶違いもありますから、私自身、当時の宮城の風俗資料に当たってひとつひとつ検証しながら書きました。
どんな家族にも歴史と物語がある
――物語は軍国少年の良彦と非国民とされた父・良一の関係を軸に進みます。普通の親子のようには心が通わない二人の様子は、読んでいて切なくなりました。
古内 父が軍国少年として育ったことについて、本人には何の責任もありません。すべて当時の大人のせいです。それは今の時代でも同じですよね。万一、また世の中が戦争に向かってしまったら、犠牲になるのはやっぱり子供たちなんです。私が責任ある年齢になるにつれて、悲惨な歴史は決して繰り返してはいけないんだと強く感じるようになりました。
軍国教育のせいで父は自分の父親を尊敬することができなかった。80歳を越えた今でも、父は祖父を軽蔑してしまったことを悔やんでいます。それはとてもつらいことで、私たちの次の世代には絶対にこのような悲しい思いをさせてはいけないと思います。
――物語が進むにつれて良一がなぜ心を病み、非国民と呼ばれるに至ったのかが明らかになりますが、その真実は現代を生きる私たちにも無関係ではないですよね。
古内 物語の最後に良彦が父・良一に対して抱く思い、それは私の気持ちでもあります。この小説を書くにあたり、祖父の残した戦争の頃の日記を何冊も読みましたけれど、細かい字でびっしりと書かれた彼の悩みは今の日本にも重なることばかりで愕然としました。国が一丸となって戦争へ向かっていくなか、個人で抵抗を試みた理想主義者の良一はくじけてしまいましたが、その姿が私たちに訴えるものはあるように思います。
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