――良彦や寿子(良彦の母)を叱りまくる祖母・多嘉子の存在感も強烈ですね。
古内 父は多嘉子のモデルになった曾祖母について「おふくろを滅茶苦茶にこき使って、偉そうで嫌なババアだった」みたいな悪口しか言わない(笑)。だから私も最初は「なんて嫌な人だ」と思っていました。でも話を聞いていく中で、明治時代に女性ひとりでやったとはちょっと信じられないような武勇伝がちょくちょく出てくるんです。驚いて父に「その話、誰から聞いたの?」って訊いたら「おふくろが言っていた」と。
そのときに、やっぱり人間は一面だけ見てもわからないものだなと思いました。だって酷い扱いを受けていた嫁が自分をいじめた姑について、悪口を言うならともかく、尊敬できる人として話すということは、嫁姑の間に単にこき使う・使われるの関係だけでなく、もっと豊かな交流があったということじゃないですか。そのときに多嘉子のキャラクターがばっと膨らみました。
――多嘉子をめぐって、思わぬ家族の歴史が明らかになるところも、読みどころのひとつですね。
古内 どんな家族にも歴史と物語がありますし、聞くとどれも本当に面白いですよね。一見、平凡に見える家族であっても、毎日をただただ安逸に送っているわけではなくて、そこにはたくさんのドラマがある。普遍的イコール平凡なことでは決してないと思うんです。『星影さやかに』を読んで、何かしらご自分の家族のことに思いを馳せてもらえたらすごく嬉しいです。
デビュー10周年とこれからの10年
――『星影さやかに』というタイトルはどのように決まったのでしょうか。
古内 祖父が非常に天体が好きな人で、抑うつ状態で書かれた日記にも木星の衛星が何個見えたとか、星に関することがたくさん書いてありました。それと星って夜空が暗ければ暗いほど、きれいに輝くじゃないですか。つらい記憶もそうなんじゃないかなって思って。つらい記憶は早く忘れてしまいたいけれど、同時に暗いことがあったときに輝いて私たちを導く道しるべになるんじゃないか。そのときに星と記憶というイメージが重なって『星影さやかに』というタイトルが生まれました。
――古内さんは『十六夜荘ノート』『赤道 星降る夜』『鐘を鳴らす子供たち』など、これまでも戦中戦後が舞台の小説を発表されてきました。なぜ戦争がテーマの作品を書き続けるのでしょうか。
古内 戦争は普段は絶対にやってはいけない酷いことを正当化します。何もしていない人たちの上に爆弾を落としたり、希望ある若者を戦場へ送って未来を奪ったり。それぞれにあった人生を無理やり奪ったんです。私の父も、自分の父親を軽蔑したという後悔を一生抱えることになりました。その無念を忘れたくないから、戦争を書くのかもしれません。
――古内さんは作家生活10周年を迎えられました。10年で思い出深いことはありますか?
古内 自分でもあっという間で、気がついたら10年経っていた感じです(笑)。デビュー作は新人賞の正賞ではない特別賞で、発売後にそんなに売れたわけでもありません。なのに10年も書き続けられたのは、優等生ぶるわけではなく、本当に書店さんと読者さんのおかげだと思っています。
2作目の『十六夜荘ノート』もひっそりと出版された作品なのにもかかわらず、書店員さんの中に「好きだ!」って言ってくれる方がいっぱいいらして、それが繫がって次作の『風の向こうへ駆け抜けろ』では、たくさんの書店さんが展開してくださった。そこから読者さんにもある程度名前を知ってもらえたような実感があります。〈マカン・マラン〉シリーズもそうですけど、書店の店頭展開と読者さんの口コミだけでじわじわと広がっていって……作者としてはこれ以上ない幸福です。
――次の10年に向けて、抱負を教えてください。
古内 これからも書きたい本はたくさんあります! おそらく私は戦争もの、スポーツエンタメ、女性向けの三本がメインの作家だと見られているように思いますが、あまり自分からジャンルで縛るつもりはありません。これからもエンターテインメントを書いていきたいという気持ちは持ちつつ、色々な小説に挑戦していきたいですね。
ふるうちかずえ 東京都生まれ。2011年、『銀色のマーメイド』でデビュー。主な著書に〈マカン・マラン〉シリーズ、『最高のアフタヌーンティーの作り方』など。
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