コロナ禍に苦しんできた一年間の政治の迷走ぶりには呆れます。危機に直面したとき、その人の本性が現れると言いますが、国家も同じだったのですね。
オリンピック開催について菅義偉内閣は「安全・安心」という言葉を繰り返しましたが、「安全」は客観的に検証できても、「安心」は主観的な受け取り方次第。その違いに無自覚なまま使い続ける政治家とは、どういう存在なのかと愕然としてしまいます。
それでも海外に目を向けると、まだ日本の方がましかと思ってしまうほど、世界は変な方向に動いています。「独裁の時代」が形成されつつあるからです。
本文を読めばわかるように、私は三年前、中国に独裁者が誕生するプロセスを私たちは目撃すると指摘しました。まさにいま、習近平国家主席は「第二の毛沢東」として、個人崇拝が進んでいます。中国共産党創設一〇〇周年の記念式典の様子など、まるで北朝鮮のようです。中国は、毛沢東時代に先祖返りしているように見えてしまいます。
ロシアのプーチン大統領の独裁化も進んでいます。野党指導者が次々に命を狙われるというのが、ロシアの現実なのです。
そうした「独裁者」のことが大好きだったのが、アメリカのドナルド・トランプ前大統領でした。金正恩(キムジョンウン)や習近平、プーチンのことを「大好きだ」と絶賛する一方、自分の側近が自分の行動にブレーキをかけようとすると、次々に首を切りました。アメリカも独裁化しつつあったのですが、そこはアメリカ。連邦議会襲撃などという危機を乗り越えて、なんとか民主主義国の面目を保ちました。
本書は、三年前に出版された単行本を元に、その後の動きなどを加筆修正して文庫化しました。佐藤優氏、村上世彰氏との二〇一八年の対談も採録しました。お二人とも東京地検特捜部に“国策捜査”で逮捕され、辛酸をなめているだけに、日本や世界の見方は鋭く、学ぶことが多い対談でした。
過去に学び、未来に備える。この本が、そのためにお役に立てれば幸いです。
二〇二一年七月
ジャーナリスト 池上 彰
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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