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浄瑠璃に魅せられた人々の悲喜交々を描いた群像劇――『結 妹背山婦女庭訓 波模様』(大島 真寿美)

浄瑠璃に魅せられた人々の悲喜交々を描いた群像劇――『結 妹背山婦女庭訓 波模様』(大島 真寿美)

「オール讀物」編集部

Book Talk/最新作を語る

出典 : #オール讀物
ジャンル : #歴史・時代小説

近松半二の情熱を受け継いで
『結 妹背山婦女庭訓 波模様』(大島 真寿美)

 江戸時代の大坂、道頓堀で活躍した浄瑠璃作者・近松半二の半生を描き、直木賞と高校生直木賞をW受賞した『渦 妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん) 魂結(たまむす)び』から約二年。待望の続編『結 妹背山婦女庭訓 波模様』が上梓された。

「人形浄瑠璃の話は『渦』で完結したと思っていたのですが、いつまで経っても頭の中からこの世界が抜けなくて……。他の小説の資料が頭に入ってこない状態が続いていたので、とにかく“頭の中の江戸”を吐き出さなくちゃ! と切実な気持ちで書きました」

 半二の死後、歌舞伎芝居の人気に押され、浄瑠璃はかつての勢いを失っていた。しかし、彼の遺志と情熱を受け継いだ人々は、懸命にそれぞれの人生を切り開いていこうとしていた――。本作は、浄瑠璃に魅せられた人々の悲喜交々を描いた群像劇である。

 その中心人物の一人が、大坂で活躍した戯画作者の耳鳥斎(にちょうさい)。商家の旦那でありながら、素浄瑠璃の腕前は玄人なみだったと言われている。

「『渦』を書いている最中から耳鳥斎には興味を持っていて、資料を集めていました。半二と生きた時代が重なっていますし、耳鳥斎が“書かれたがっている”ような気がしたんです。彼は、この世を“戯場”のようなものだと捉えていて、人生を俯瞰する目を持っています。この目は、道頓堀で虚構を浴びるうちに培われたのでしょう。半二とも共通している点です」

 浄瑠璃から歌舞伎作者へ転向し成功を収めた近松徳蔵、かつて半二と切磋琢磨した菅専助、浄瑠璃作者として芽が出ない余七、対照的に才能を開花させていく柳太郎。個性豊かな登場人物たちが忙しなく動き回るなか、“裏の主役”として重要な役割を果たすのが、半二の娘・おきみだ。彼女は、幼い頃から蓄えた豊富な浄瑠璃の知識をもとに、作者を夢見る男たちの指南役となり、大きな影響を与えていく。浄瑠璃を誰よりも愛し、才能に溢れているが、決して表に出ようとしない。掴みどころのない、不思議な魅力をまとっている。

「『伊賀越道中双六』の作者として、近松加作の名が半二と並んで残っていますが、その正体は分かっていません。半二に娘がいたことは確かなので、娘が加作だったという可能性もなくはないのです。おきみちゃんは自分の言葉にすら縛られない、誰よりも自由な人です。書き進めるにつれて、彼女のことがどんどん好きになりました。

 実は今年は『妹背山婦女庭訓』の初演から二五〇年なんです。初演日の前日に最後の一編を書き終えて、自分でも驚きました。どうやら私の“頭の中の江戸”も成仏してくれたみたい(笑)」


おおしまますみ 一九六二年生まれ。九二年「春の手品師」で文學界新人賞を受賞しデビュー。二〇一九年『渦 妹背山婦女庭訓?魂結び』で直木賞受賞。『ピエタ』ほか著作多数。


(「オール讀物」9・10月合併号より)

単行本
妹背山婦女庭訓 波模様
大島真寿美

定価:1,870円(税込)発売日:2021年08月04日

文春文庫
妹背山婦女庭訓 魂結び
大島真寿美

定価:869円(税込)発売日:2021年08月03日

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