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対談 冲方丁×江尻勝 (DETONATOR代表)「オンラインゲームは分断時代の特効薬。だから描きたいんです」

対談 冲方丁×江尻勝 (DETONATOR代表)「オンラインゲームは分断時代の特効薬。だから描きたいんです」

聞き手:「別冊文藝春秋」編集部

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

「別冊文藝春秋 電子版40号」(文藝春秋 編)

 不器用な父親ノブが、オンラインゲームの力を借りながら家族に語りかけていく新連載『マイ・リトル・ジェダイ』。この物語では、主人公ノブが、離れて暮らす中学2年生の息子とゲームを通して交流し、日々のよろこびとしています。

 本作の執筆の背景には、冲方丁さんの溢れんばかりのゲーム愛がありました。

 連載開始にあたって改めて、「いまのオンラインゲーム事情」から「いったいどんな体験が出来るの?」といった根本的な疑問まで、さまざまに解き明かすべく、スペシャルゲストにお越しいただきました。eスポーツの黎明期から業界を牽引されてきた、プロゲーミングチームDETONATORオーナーの江尻勝さんです。ご自身も元日本チャンピオンのプレイヤーであり、引退後はスタープレイヤーを数多く育ててきた江尻さんが会得した、ゲームを通して自分の個性と向き合う方法についてもたっぷりお聞きします。

 時代の閉塞感を打ち破る鍵は、オンラインゲームにある――そう実感できる豊穣な世界へ、さあご一緒に!


進化するオンラインゲーム

江尻 『マイ・リトル・ジェダイ』連載開始おめでとうございます。第一章を拝読しましたが、すごく面白かったです。最初、ノブがあまりにダメダメな父親なのでびっくりして。ゲームもめちゃくちゃ弱いし、彼はこの先大丈夫なのかな、と(笑)。しかも息子は事故で意識不明になってしまうし、もう初回からハラハラし通しだったのですが、まさか、意識が戻らない息子から、オンラインゲームでメッセージが届くとは! そこからの急展開に、一気に惹きこまれました。

 そもそも冲方さんは、なぜゲームを題材に小説を書こうと思われたのですか?

冲方 僕は小さいころからゲームが大好きで。小学生の時にはインベーダーゲームやファミコンに夢中になりました。

江尻 私も同じです。世代ですね。

冲方 小学生の頃、「コロコロコミック」に『ゲームセンターあらし』という作品が連載されていたんです。ふだんは冴えない少年・あらしが、ひとたび対戦ゲームを始めると天賦の才でライバルたちを圧倒していく物語に、胸をときめかせました。あらしは今で言うところのeスポーツ(注:コンピュータゲームでの対戦をスポーツ競技として捉えたもの)プレイヤーですよね。思えば、あれが僕のeスポーツとの最初の出会いになりました。

 大人になってからもずっとゲームは続けていました。2000年代になって、本格的なFPS(注:キャラクターの視点で楽しめるシューティングゲーム)に出会えたのは大きかったですね。オンラインで見知らぬプレイヤーたちと、夜な夜な戦っていましたよ。特に、「コール オブ デューティー2」にのめり込みました。

江尻 おお、だいぶハードな感じですね。

冲方 あのゲームで初めて、「プレイさせてもらえない」という体験をしましたね。他のプレイヤーがあまりにも上手で、開始5秒で瞬殺されるんです。世界には、こんなに強いプレイヤーがたくさんいるのか、と愕然としました。ムキになってものすごく練習しましたね。

江尻 冲方さんがかなりのゲーマーだということが、熱気でよく伝わってきます(笑)。

冲方 FPSもどんどん進化していますよね。「フォートナイト」なんて、バトルをしながら、攻撃の拠点や防御のための建物を建築する。闘いの舞台を自分でクラフトできることに度肝を抜かれました。

江尻 「フォートナイト」はスピードも速いし、難しいですよね。目も酷使するし、体力もいる。

どうしても、息子に勝てない

冲方 僕の息子はいま中学生なのですが、以前この「フォートナイト」で、当時小六だった彼にボロ負けしたんです。同じチームになれば足手まといだし、バトルロイヤルモードでは気が付いたら息子にガンガンに撃たれていた(笑)。いくら練習しても、どうやっても勝てない……。

 今回の『マイ・リトル・ジェダイ』には、この時の思い出も反映させています。ノブも僕と同じように、息子に勝つことができない。ゲームを介したコミュニケーションというのは、僕にとって自然な景色ですし、父親が息子に置いていかれながらも奮起して、何とか頑張る物語というのは、今の時代に合っているんじゃないかとも思いまして。

江尻 ゲームの中の世界にとらわれてしまった息子のために、家族や友人みなで協力してオンラインゲームをするという展開も最高ですよね。対戦相手をはじめ、ノブがゲームを通してこれからどんな人たちに出逢うのか、すごく楽しみです。

冲方 プロゲーマーも登場させようと思っています。そもそも、オンラインゲームを生活の糧としている人たちがいるというのは、クールで面白い時代だと思うんですよね。いつかそうなるだろうと信じていたんですけれども、『ゲームセンターあらし』の世界がやっと現実になってきたんだなと、もう嬉しくって。『マイ・リトル・ジェダイ』には、僕が経験してきた、オンラインゲームの世界の魅力を詰め込みたいと思っています。

プレイヤーからマネジメントへ

冲方 江尻さんがゲームに出逢ったきっかけはなんだったのですか?

江尻 僕は大学を卒業したあと、カリスマ美容師ブームの真っただ中で美容師になりました。しばらくは忙しくてゲームから遠ざかっていたのですが、独立して自分の店を持ったときに時間ができ、32歳になって初めてパソコンを触りました。そこで出会ったのがPCで操作するFPSです。

 僕がプレイしていたのは、「アライアンス・オブ・ヴァリアント・アームズ」、通称AVAというゲーム。始めてから2年で、後楽園ホールで行われたAVAの大会で日本チャンピオンになることができました。35歳のおっさんがゲームで若い子を倒すという、なかなか味わい深い経験をさせてもらいました(笑)。その大会を最後にプレイヤーとしては引退して、同時期に体を壊してしまって美容師もやめることに。

 これからはプレイヤーではなくマネジメントをやっていきたいなと考えていたところ、海外のゲームシーンの情報に触れる機会に恵まれまして。海外にプロゲーミングチームがあるんだったら、日本でもできるんじゃないかな、と。こうして09年にDETONATOR(以降「デトネーター」)を立ち上げました。

拡大するeスポーツ

冲方 オンラインゲームに対する世間の見方も、ここ十年でだいぶ変わりましたよね。

江尻 当初は、ゲーミングチームを設立したと言っても、周囲は「何それ?」という反応でしたね。

冲方 大会で賞金が出るようになったり、プロゲーマーが誕生したりしだしたのはいつ頃からなのですか。

江尻 実は、私がプレイヤーとして活動していた2010年頃には、すでに賞金付きの大会が開催されていたんですよ。例えば私が日本一になった11年のAVAの大会は、優勝賞金が100万円。1400人収容の後楽園ホールに2000人以上集まったんです。当時からそれぐらい、コアなファンの間では盛り上がっていた。ただ、それがメディアで報じられることはほぼなくて、まだまだニッチな業界でした。

 14年あたりからeスポーツというワードが徐々にメディアに取り上げられるようになり、ビジネスとして取り組みたいという人たちが増えてきました。16年にはゲームタイトルも増えて、大会の規模もどんどん大きくなった。一気に空気が変わったのが、18年ですね。ストリーミング技術(注:動画データのダウンロード方式の一種。再生にかかる時間が大幅に短縮できるようになった)の発展によって、動画の視聴が一般的になり、ゲームのプレイ動画を「見る」文化が定着しました。

冲方 ストリーミング配信で大会を観戦できるようになったり、実況動画配信によって収入を得られる人が出てきたりしたのですよね。ここ数年で急速に、数億円規模のお金が動く大会なども開催されるようになり、eスポーツは一般メディアでも注目されることが増えました。

江尻 eスポーツという言葉が指し示す領域も格段に拡がって。僕の場合は、ゲームとゲームの真剣勝負それ自体をeスポーツととらえていますが。

冲方 一時期、ゲーム叩きっていうんですかね。教育に悪いとか、暴力性を助長するとか、マスメディアもオンラインゲームを扱いづらくなっていた時期がありましたよね。

江尻 今も一部にはそういった偏見は残っていると思いますよ。その状況について僕はもう受け入れていて、否定も肯定もしないというスタンスです。ただ、いわゆる「ゲーム依存」という社会の課題と、いま僕たちがやっている競技としてのeスポーツとは、切り離して考えてほしいとは思っています。

 僕たちはあくまでもゲームを一つのプロスポーツとして推進したいんです。そこには教育的な意味づけも生まれてくるでしょうし、経験できることは無限大です。

冲方 ゲーム業界の生態系もずいぶん変わってきたように思います。

江尻 そう思いますね。ゲーム会社の動きも、やはりどんどん変わってきていますし。海外からの影響も年々強くなり、マーケットが拡大しているのも大きいです。

海外シーンとの交流

冲方 eスポーツにおけるグローバル化にはどのような傾向があるのですか?

江尻 海外との交流は非常に活発です。私たちも、日本の選手を海外のチームに参加させる施策を16年からやらせていただいています。違う国のプレイヤーとのやりとりって、もう本当に大変ですけど、終わってみると面白かったね、となる。ここまでグローバル化するなんて、デトネーターを始めた当初は正直想定していませんでしたし、ビジネスとしてのポテンシャルもまだまだ感じますね。我々も、台湾や韓国に拠点を置いたり、フィリピンやタイの選手の日本での活動を支援したりしています。欧州やアメリカのゲームショウにもよく行きますね。

冲方 やっぱり、グローバル化に非常に適した産業なんですね。そもそもゲームには、国や言語の壁を越えられる楽しさがありますよね。Steam(注:米Valve社が運営するPCゲームのプラットフォーム)で新しいタイトルがリリースされると、まず翻訳されるかどうかが話題になります。日本語対応していないものは、みんな頑張って辞書を引きながらプレイする。

 僕が初期の「コール オブ デューティ」をやっていたときとか、ゲーム空間に日本語、スペイン語、ロシア語が飛び交って、プレイヤー同士、勢いだけで互いが何を言いたいかを理解しようとしていました。

江尻 オンラインならではの醍醐味ですよね。

冲方 意思疎通ができると、たまらなく嬉しいですよね。そういう体験が共有できると、次はあのプレイヤーの国に実際に行ってみようかなって、海外へのハードルがぐっと下がりますね。他国への偏見もふっとかき消える。

江尻 私自身もゲームの仕事に関わり海外と繫がることが増えたことで、少しずつ視野が広がったような気がしています。若いプレイヤーを見ていると、その傾向はより強く感じますね。彼らにとって、自分とは異なるバックグラウンドを持つ人たちと時間を共有することは当たり前のことなんです。

冲方 文化も常識も違う人たちが、同じゲームが好きというだけで、共通言語を持つことができる。ゲームって、“分断”が強調されるこの世の中で、別のコミュニティに入っていくときのドアの代わりになるのかも。自分には、他のコミュニティとの出入口があるんだ、高速道路があるんだって思える人はやっぱり強いと思う。

 だって他国の文化に触れると、一つのコミュニティで行き詰まっても別の社会があるんだと気が付けますから。コミュニティって、どうしたってそのときどきで状況が変化しますからね。コロナ禍で就職難になったら海外に活路を求めたり、同じ日本の中でも、パッと他県に移動したりとか。様々な事情で今いるところにいられなくなったときに、新しい居場所を見つけられることは、ある種のセーフティーネットにもなると思うんです。

江尻 まさにそうですね。そういう行動力をつけるきっかけも、ゲーム内にはたくさん用意されていると感じます。

ゲームの中では失敗できる

冲方 ゲームって、世の中で一番失敗できる媒体だと思うんですよ。いま、現実世界では、チャンスがどんどん少なくなっているじゃないですか。閉塞感や生きづらさを抱えている子供たちにも、ゲームは相当勇気を与えているんじゃないかな。

江尻 そもそも、ゲームのシステムそのものが、トライアンドエラーが前提になっていますしね。

冲方 一度失敗しても、その失敗を次にどう活かすかを考えた方が、プレイは上達しますよね。極端な話、ひどいしくじりをしたら、いったん離脱して、反省したら別のアカウントでもう一回やり直す、ということもできる。そういう、「逃避」ではなく、「退避」が許されているところもゲームの魅力です。

 以前、ゲームのシナリオ開発に携わっていたときに、プレイヤーが負けたときのセリフってすごく大事だなと気が付いたんです。負けをしっかり認めながらも、挑戦したこと自体はきちんと肯定する。いま振り返ると、すごく教育的なセリフ作りをしていたんだなと思います。

江尻 反省が可能な媒体という意味では、いま冲方さんがおっしゃったように、教育というキーワードは無視できないものですね。私たちも、ゲームを通じて人は育つと確信しています。

 チームプレーの場合、そこにいる数人で一つの社会が成立する。自分たちでルールを作らなければならないし、人とのコミュニケーションを学ぶ機会にもなる。ゲームで学べることは年々グレードアップしていると感じますよ。

冲方 息子が「フォートナイト」をプレイしているとき、実に緻密に戦略を立てていたんです。何とかして大人に勝とうとするんですよね。手足が震えるぐらい集中して、勝負が終わった瞬間は、もう放心状態で。努力目標をいかにして達成するのかと考えるその過程は、まさしく教育というか、人生そのものだなと思いました。

江尻 我々も「フォートナイト」塾をやったことがあるんですよ。小さなスタートとゴールを決めることで、自分が成長したと実感でき、その成功体験がとても良い刺激になったようです。

冲方 プレイスタイルに人間性が出るというのもゲームの特徴ですよね。オンラインではあるんですけど、そういう意味ではすごくアナログな面もありますね。

江尻 顔が見えない分、プレイの作法や、コミュニケーションの取り方に、人間性がにじみ出てくるんですよね。今はVCという声でのやり取りが主流ですが、そこでどうやって他人と関係を築くかがいろんな意味で重要になってきます。だからこそうちのメンバーには、ちゃんとひとの話は聞こうねとか、返事をしないと相手にされないよとか、基本的なことから伝えるようにしています。

トッププレイヤーは何がすごい?

冲方 もう一つ、息子の話で印象的なことがありまして。「フォートナイト」をプレイ中に有名プレイヤーとマッチして、助けてもらったことがあったらしいんです。武器を分けてもらったり、苦しい時には盾になってくれて。「優プレイ」っていうんですかね、とにかくめちゃくちゃかっこよかったと。でも、別のマッチで偶然再会したら、今度は瞬殺された(笑)。優しさと厳しさを同時に教えてくれる存在だったようですね。技術があるからといって、テクニックを誇示して傍若無人に振る舞うことがトッププレイヤーじゃないということを学んだようでした。

江尻 アバターだから無責任に振る舞っていいというわけではなくて、自分が属しているコミュニティに対して責任を持てることが、トッププレイヤーたるゆえんなのでしょうね。息子さんのような経験を経て、ゲーム空間というひとつのコミュニティに入ることは、責任をともなうことだと肌身で感じられるようになる。

冲方 確かに、コミュニティに対しての責任を感じて初めて、その中の一員になれる喜びも味わえるんでしょうね。そうした健全な帰属意識を、トッププレイヤーは周りにも与えることができる。

江尻 長年、世界トップレベルの選手を間近で見てきました。もちろんいろんなタイプのプレイヤーがいるのですが、長く残っていくのはどうしても一握りになります。僕は選手たちに、“心技体”が揃っていないと保たないよ、とよく伝えています。ただ技術的に秀でているだけでなくて、心も育てなきゃいけないし、身体づくりにも向き合わないと。そうしないと、一時は成功しても、長くは続かないという印象はありますね。

 そして、それを下支えするのが、どれだけそのゲームが好きかということ。もう好きで好きでたまらなくて、24時間プレイしていたい。新しいゲームが次々と出てくる中で、やっぱり自分はこの作品が好きという、対象への愛が強い人が、トップレベルになればなるほど多いのかなと思います。だからこそ、努力を努力と思わず続けられるのでしょうね。

冲方 チームとして、そういう選手にはどんなサポートをするのですか?

江尻 何かに突出しているということは、逆に何かバランスを欠いているところもある。そこをどう補ってあげられるかが、デトネーターのようなチームの役目ですね。メンタルケアの相談に乗ることもありますし、お金に関する知識を教えるといった、具体的な指導をすることもあります。

最後は人間力の勝負

冲方 スタープレイヤーとしての振る舞い方のアドバイスもなさるのですか?

江尻 僕はよく、とにかく僕たちの仕事はファンありき、ファンが自分を救ってくれるんだよと伝えています。そのために、日ごろから自分の発言や行動には責任を持ちなさい、と。単純な話で、いつもネガティブな内容のSNSや配信を見て、あなたは面白いと思いますかってことですよね。最初は10人だけでもいい。まずは応援してくださるその10人を大切にしなさいと言っています。それが結果的には、SNSのフォロワー数や配信の視聴数として、見える形で跳ね返ってくるんです。

冲方 結局、人間としての力をつけることが、最終的な目標になってくるのですね。

江尻 そこに尽きると思います。人間的な幅が広がると、選択肢が増えるのは事実なので。ゲームだけうまくても、逆に喋りだけが巧みでも続かない。そのプレイヤーが積み上げてきた信頼があって初めて生き残れるっていうのは、オンラインゲームの世界でもそうなんですよね。僕が長年この世界にいて一番感じたことはそういうシンプルなことだったので、デトネーターというチームに入ってもらったのならば、選手たちにもそこはきちんと伝えたいなと意識しています。

冲方 実況動画が人気になってきたのも大きそうですね。選手の人間性も細やかに伝わりやすいですし。子供たちもその辺はシビアに見ているのでしょうね。

江尻 そうですね、特に子供たちからの反応は、すごくリアルだと思います。

冲方 プロゲーマーに憧れる子も多いですからね。『マイ・リトル・ジェダイ』でも、中学生のリンのヒーローは、トッププロゲーマーなんです。子供たちにとって、もしかしたら周りの大人以上に、スター選手からの影響は大きいのかもしれません。

江尻 まさに、魅力的なスターを育て、次世代に繫いでいくことが、チームにとっても、業界全体にとっても重要なことだと思っています。

 その施策の一つとして、僕たちはいま、草の根での活動に力を入れています。実は私、今日も沖縄からこの会話に参加しているんですよ。地域活性化の文脈で、沖縄でプロゲーマーが育つためのインフラを整えたいなと。我々にとっても新しいチャレンジですし、しっかりと沖縄の皆さんと向き合わねばと、こちらに家を構えました。

冲方 それはゲームの「伝道師」みたいなものですか?

江尻 その地の人の生活に密着したゲーム文化を根付かせていくことと、ゲームビジネスで地域に貢献していくことを両輪で走らせたいんです。まさに今、ずっと温めていた構想が軌道に乗り始めたタイミングなんですよ。

冲方 なるほど。確かにそれはデトネーターさんのブランドがあるからこそできることでもありますね。なんだかプロチームの名前を冠した、地域のサッカークラブみたいです。こうやってスターの卵が生まれていくんだろうなあ。

江尻 プロゲーマー育成のための、AIを使ったツールも開発しているんです。海外のエンジニアと協力して、特許もとりました。プレイ動画を投稿するだけで、自分のプレイスタイルを分析してくれるんです。

冲方 すごい。それなら教える側の負担も軽減できそうですね。

江尻 これは独学にも役立つんですよ。トライアンドエラーのサポートになるので、一人でも成功体験を味わえるんです。

冲方 プロゲーマーを目指す若い人たちが、環境にかかわらずスキルアップができるようにもなりそうです。

江尻 そうなんです。この分析ツールには僕たちのノウハウを詰め込んでいるのですが、これ、他のチームもカスタマイズして使えるようにリリースする予定なんですよ。ゲーム業界全体がビジネスとして回るようにするのが目標なので、いまベータ版でいろんな方にテストしてもらっています。

冲方 デトネーターさんも、チームとして大きな変革を予定されているとうかがいました。

江尻 そうなんです。いまデトネーターに所属しているストリーマー2名が、この秋に卒業します。彼らは独り立ちできるようになったので次のステージに進みます。閉じ込めるのではなく、成長し活動の幅が広がれば独り立ちしてもらう。循環と継承を繰り返しながら、個を育てられる強い組織にしていきたいなと思っています。理想の組織の形にするために2年ほどかけました。想いを理解してくれたメンバーやパートナーには感謝です。

自分と向き合うから、次の道が拓ける

冲方 なんだか江戸時代の剣術道場みたい。大きな看板のもとにたくさんの弟子が集って、独立しては次の流派が生まれていく。弟子同士のネットワークが広がって、最終的には、日本全国にびっしり道場がつくられる。

 プレイヤーを引退された方は、次はどのようなステップを選ばれるのでしょうか。リアルスポーツだと、トレーナーやマッチメーカーなどの興行主、あるいは審判や解説者がありますが。

江尻 プレイヤーのセカンドキャリアの選択肢は急速に増えていますね。たとえば大会のオブザーバー。大きな大会が増えてきたので、大会をきちんと管理して、ルール違反がないかをチェックする専門家が必要とされている。選手経験者の方がより良いジャッジができるんですよね。あとはうちのような組織のスタッフを希望する人もいます。

 私がデトネーターを始めたころよりは間違いなく、選手としての経験値が生かせる場所は増えています。ただ、生計を立てられる仕組みに関してはまだまだこれからです。

 それぞれの選手が自分の特技を生かしたセカンドキャリアを選択できるようになれば素敵ですよね。ゲームを通して自分の個性に向き合っているので、自分にフィットした道を探す力が育っているんです。

冲方 結局、第一線を引退したあとにも仕事があるかどうかなんですよね、業界として成り立つかどうかって。

江尻 プレイヤーとして鍛えられた人は、行動することに対して躊躇がないタイプが多いですね。僕もいつも、何事にもチャレンジしてトライアンドエラーをしなさいって伝えるようにしています。失敗から学んだ経験こそが自分を伸ばすということがわかっていると、ゲームだけでなく、その後の人生にも有益ですよね。

冲方 まさに失敗できることがゲームの良さということに繫がってくるのですね。

 ゲームを通して世界を眺めると、人が抱えている普遍的なものが描けるのではないかと思って『マイ・リトル・ジェダイ』を執筆しているのですが、江尻さんのお話をうかがってその確信がさらに深まりました。またぜひお話しできたらと思っています。

江尻 こちらこそ、ぜひぜひお願いします。連載も楽しみにしています。第一章があまりにいいところで終わっていたので、続きが気になってしょうがなくて。

冲方 あの情けないノブくんが江尻さんみたいに成長……はしないとは思うけど(笑)、彼も必死で頑張っているので、ぜひ行き先を見守っていただけたら嬉しいです!

※冲方丁さんによる『マイ・リトル・ジェダイ』第一章は「別冊文藝春秋」2021年9月号に掲載されています。


うぶかた・とう 作家 1977年、岐阜県生まれ。96年『黒い季節』で第1回スニーカー大賞金賞を受賞してデビュー。第24回日本SF大賞を受賞した『マルドゥック・スクランブル』などの作品を経て、2010年、天文暦学者・渋川春海の生涯を描いた初の時代小説『天地明察』で第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞、第4回舟橋聖一文学賞受賞、第143回直木賞候補。12年『光圀伝』で第3回山田風太郎賞受賞。16年『十二人の死にたい子どもたち』が第156回直木賞候補、19年には堤幸彦監督で実写映画化され話題を呼んだ。
他の著書に「マルドゥック」シリーズ、「シュピーゲル」シリーズ、『剣樹抄』『はなとゆめ』『戦の国』『麒麟児』『アクティベイター』『月と日の后』など多数。漫画の原作、アニメやゲームの脚本など、小説以外の分野でもその才能を発揮している。
「別冊文藝春秋」21年9月号より、オンラインゲームをテーマにした長篇小説『マイ・リトル・ジェダイ』を連載中。

えじり・まさる プロゲーミングチームDETONATOR代表
1976年生まれ。大学卒業後、美容師専門学校を経て、当時美容師ブームの中心であったACQUAに入社。その後独立して美容師兼ヘアメイクとして活動。
美容師在職中にPCゲームに出会い、2009年にプロゲーミングチームDETONATORを設立。11年にはPC用オンラインFPS『Alliance of Valiant Arms』で日本一となる。12年に美容師を引退し、ゲーミングチーム運営に本格的に舵を切る。15年、株式会社GamingDを設立。16年、台湾に住居・練習場を整備、18年にフィリピン、韓国にゲーミングハウスを設置、19年にはタイでの活動も開始するなど、積極的に海外シーンに挑戦している。
19年、初の著書『DeToNatorは革命を起こさない ゲームビジネスで世界を目指す』刊行。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版40号 (2021年11月号)
文藝春秋・編

発売日:2021年10月20日

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