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凜々しいキャラクターと、祈るようにその背中を見送る眼差し――ある父子のイメージが僕にこの物語を書かせた

凜々しいキャラクターと、祈るようにその背中を見送る眼差し――ある父子のイメージが僕にこの物語を書かせた

冲方 丁

はじまりのことば

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

「別冊文藝春秋 電子版39号」(文藝春秋 編)

 このたび、新作『マイ・リトル・ジェダイ』の連載がスタートいたしました。

 編集者と様々なアイディアを話し合ううち、ふとシンプルで力強いイメージが浮かび上がったことから生まれた物語です。

 イメージとは、「どこかへ果敢に走り込んでいく、可愛らしくも凜々しいゲームのキャラクターの背」と、そして「その背を見送る者の熱い眼差し」でした。

 ある父子の、ワンシーンとして思い浮かんだイメージで、キャラクターは息子の分身、見送っているのは父親です。

 父親は、なぜか祈るような思いで、あるいは希望に満ちあふれながら、息子がたった一人で駆けてゆく姿を見つめています。

 そのイメージが核となって、ぱっと物語の枠組みが見えるや、たまらなく胸が熱くなったことを覚えています。一行も書いていないどころか、主人公の名前さえ決まっていないにもかかわらず、話し合いの中で、編集者とともに、何かを掘り当てたような手応えを感じたものでした。

 ただ、そのときは他の企画が並行して進んでいたため、すぐには物語作りに着手できずにおりました。

 しかるべきタイミングを見計らいつつ、物語を構成するために必要な諸設定をこつこつ用意していたのですが、そのたびに、当初のイメージと昂揚感がよみがえり続けたものです。

 何本かの企画が形になって手を離れ、ようやく本格的にこの作品に着手できるようになったときも、強いモチベーションが自然とわき起こるだけでなく、

「自分がこれを書けるんだ」

 と、ご褒美でも得たかのような喜びを感じ、自分でもちょっと驚いたほどでした。

 このような、時を置いても消えずに残るイメージを発見できたことは書き手にとって何よりの幸いであり、それが同時に読者の喜びとなることを願ってやみません。

 まだまだ本作は始まったばかりであり、今はとにかく冷静に、何も取りこぼさず、地面の中に埋まっている脆い何かを慎重に掘り出すような気分で物語作りに取り組んでいます。

 もしかすると、プロットを発展させるため、当初とは異なる、思い切った変更を加えるかもしれません。それは、書き手の胸を熱くさせる何かを、より正しく読者に届けるための工夫であるのですが、功を奏するかどうかは、実際にお届けせねばわかりません。

 今では、最初に見出された父子だけでなく、その周辺の人物たちも、一行ごとに命を得て動き出し、むしろ書き手を思わぬところへ連れていってしまいそうな気配を、早くも漂わせています。今後の展開に、ぜひご期待頂ければと思います。

 最後に、本作のテーマについて。

 今のところ書き手の側からはっきり見えているのは、今この時代で「次代の子らに示すべき人生の価値とは何か」ということ。

 私自身、物語を書きつづりながら、つぶさに見定めて参りたいと思います。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版39号 (2021年9月号)
文藝春秋・編

発売日:2021年08月20日

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