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<エッセイ>木原音瀬「いつまでも終わらない創作の遊び」

<エッセイ>木原音瀬「いつまでも終わらない創作の遊び」

木原 音瀬

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #随筆・コミックエッセイ

「別冊文藝春秋 電子版40号」(文藝春秋 編)

[Iの告白]

 同人誌を作らない人生よりも、同人誌を作っている人生の方が長くなってしまいました。こんにちは。文芸小説とBL小説を書いている木原音瀬です。知らない方のために説明させていただきますと、同人誌とは、個人が自分でお金を出して本を作り、即売会などで販売する自費出版物になります。私は学生時代から今日に至るまで、気の合う友人と二次創作やオリジナルBL小説の同人誌をせっせと作り続けています。

 同人誌のよさは、気軽に、好きなものを書いて読んでもらえる形にできるというところにあると思います。今は個人で楽にweb上で小説を発表できますが、同人誌の中でもさらに“合同誌”は同じテーマで数人が書くという点で、どんなものが出てくるかわからない闇鍋的な面白さがあります。

 商業誌デビューをしてから、商業BLでNGだったものを合同誌のテーマにさせてもらうことが多かったのですが、どんなテーマを提案してもほぼNGをださない素敵な友人に恵まれ、もとから闇鍋的だった合同誌は魔界的な味わいになっていきました。

 ハッピーエンドがお約束のBLでバッドエンドをもってきたり、二次創作では誰にも需要がない脇キャラ、何一ついけてないおっさんをメインに据えたりと好き放題やっていましたが、攻妊娠(男性役の人が妊娠するという、人体無視のテーマ。BL業界でも需要なし。地球人では無理だったので、私は宇宙人で書きました)ぐらいから、読んでくださる方を置き去り、または振り落としまくっているのではとふと気づいたのでした。

 友人とも、そろそろ本気で「読者に求められる」「売れる」本を作らないか、ということになりました。BL業界でも、手に取ってもらいやすいのは、片思いとか、幼馴染みとか、年の差物とか、普遍的でキャッチーなテーマになりますが、どうしても自分の心が奮い立たない。気持ちが乗らないと話も思いつきません。

 そんな中「求められる、売れる本とは何か」を友人と共に考え、意見を出し合い、悩み、最終的にひねり出したテーマが「ふんどし祭り」でした。えっ、それ? と思った方。その感性は正しいです。ふんどし祭りはBL界でも万人に待ち望まれているテーマではありません。けど「求められる、売れる」と、「自分たちが楽しめる」の妥協点を探った最終地点に燦然と輝いていたのがふんどし祭りでした。

 ふんどし本は大々的に宣伝し、たくさんの販促ペーパーを作り、イベント会場では手作りふんどしを用意して、合同誌を購入してくださった方に抽選でプレゼントするなど、企画が盛り沢山ですごく楽しかったです。その後さらに、ふんどしファッションショーが開催されるというテーマで第二弾も作りました。田舎の町おこし目的のファッションショー、ふんどしでランウェイを歩くというシュールなビジュアルに妄想がたぎりました。

 これ以降はわりと正気になり「BL小説を初めて読む人向けの本」とか、時流に乗ろうぜ! ということで「異世界転生」などのテーマで話を書いてみたりもしました。ここ何作かはキャッチーなテーマだったので次はディストピアのお話にしよう~ともくろんでいます。混乱の時代に、地獄みたいな話を沿わせてみようぜ、ということで。

 友人の一人はディストピアだけど最後はハッピーエンドだと話していました。私はお話を妄想しながら、自分でも思わず「これって地獄じゃん」と呟いた話を書く予定です。

「このテーマはどう?」「いいよ、書くよ」とフットワークの軽い友人に恵まれて、今も楽しく同人誌を作れることが、とてもありがたいなと思っています。


このはら・なりせ 高知県生まれ。一九九五年、「眠る兎」でデビュー。以降、ボーイズラブ小説界で不動の人気を博す。二〇〇六年、『箱の中』と続篇『檻の外』が、「ダ・ヴィンチ」誌上で紹介されたことをきっかけに大きな話題となる。『秘密』『美しいこと』「吸血鬼と愉快な仲間たち」シリーズ、『ラブセメタリー』など著書多数。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版40号 (2021年11月号)
文藝春秋・編

発売日:2021年10月20日

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