- 2022.04.07
- 特集
忘れられない西村先生の言葉――『東京オリンピックの幻想』で描いた、平和とスポーツの在り方について<追悼 西村京太郎 担当編集者が見たベストセラー作家の素顔(1)>
文:秋月 透馬 (現・第二文藝部)
『東京オリンピックの幻想』(文藝春秋)
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
鉄道ミステリーの第一人者として生涯647もの作品を遺した西村京太郎さん(享年91)。空前絶後のベストセラー作家に伴走した編集たちが、担当作品とその素顔をリレー形式で綴っていく。
忘れられない西村先生の言葉があります。
2020年4月の『東京オリンピックの幻想』刊行に際し、インタビューさせていただいたときのことでした。
「戦争を経験した世代がどんどんこの世を去っています。残されたのは、私のように、戦争は知っているが、戦闘は知らない世代です。現代を生きる者として『戦争のこと』をしっかりと書き続けていかねばならない」
連日、ロシアの侵略でウクライナの人々の命が奪われるニュースを読むたびに、西村先生の、この言葉を思い出します。
本作の舞台は1940年。日中戦争から、第二次世界大戦へと突き進む日本が、東京オリンピックの開催を返上した経緯が、綿密に描かれています。十津川警部は、2020年東京オリンピックの警備計画にかかわることになり、かつての「幻のオリンピック」に着目し、「失敗の研究」に取り組むのです。
インタビューで、西村先生は、1940年当時をこう振り返りました。
「昭和15年の皇紀2600年に、挙国一致の祝賀を東京で開こうと考えた政治家が、東京オリンピックの招致をしたんです。
ところが、一般の市民である我々は、オリンピックというイベントがどんな大会なのか、あまりイメージできていませんでした。
でも、大騒ぎはしていたんですよね。なぜかというと、日本人はお祭りが好きだから。オリンピックという大きなお祭りが開かれるのであれば楽しもう、と。
『平和の祭典』であることや、文化や国籍などの違いを超え、平和な世界の実現を目指す『オリンピック精神』などは、まったくわかっていなかったのですが……」
間もなく開催予定だった東京オリンピック2020の本番では、「卓球を応援したい」ともおっしゃっていました。
「作家デビューをした当時は、世田谷に住んでいて、地元の卓球チームに参加していたんです。近所の文具屋のおやじなどが集まっていたのですが、『作家として売れているんだから、チーム全員のユニフォームを作ってくれ』と頼まれましてね。作りましたよ(笑)。
みんな熱心でしたから、『勝ちたい』と思って、専修大学からコーチに指導に来てもらっていたのですが、なかなか卓球の練習をさせてもらえない。コーチの指導は、『まずは、かえる跳びからやりましょう』でしたから(笑)
今の時代、押しつける指導はあっていないと思うし、全体のために個人が犠牲になる、なんてことはないようにあってほしいね」
平和の中で、個人が輝く時代であってほしい。
西村先生の「この思い」をしっかりと引き継いでいきたいと胸に誓っています。
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