- 2022.04.14
- 特集
米沢名物「牛肉どまん中」を大宮駅で<追悼 西村京太郎 担当編集者が見たベストセラー作家の素顔(6)>
文:大沼 貴之 (現・文春文庫部部長)
『妖異川中島』(文春文庫)
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
鉄道ミステリーの第一人者として生涯647もの作品を遺した西村京太郎さん(享年91)。空前絶後のベストセラー作家に伴走した編集たちが、担当作品とその素顔をリレー形式で綴っていく。
西村京太郎先生と初めて取材旅行に行ったのは、2008年4月のことでした。
当時私は出版部の担当になったばかり。前任者は長らく担当をしていて先生からの信頼も篤い先輩でしたので、妙に緊張して引き継いだことを覚えています。
山形県米沢市を中心に、上杉謙信ゆかりの史跡をめぐる取材旅行で、上杉家御廟所や上杉神社、上杉まつりが毎年行われている松川河川敷(川中島合戦を再現している)などに行きました。翌年放送されるNHK大河ドラマが、上杉家の家老直江兼続が主人公の『天地人』でしたので、それにあわせてテーマを決めたと記憶しています。
オール讀物では、「日本の祭り」を舞台にした作品を数多くご執筆なさってましたが、そろそろ行ける場所も限られてきて、この頃から歴史上の人物にゆかりのある史跡が多くなってきました(翌年が徳川家康ゆかりの駿府でした)。
取材チームは、出版担当の私と、オール讀物担当者、前任の出版担当者、それに光文社の面々という大所帯。一同、東京駅で先生をお迎えして、山形新幹線に乗り込み、米沢駅でチャーターしたマイクロバスで移動です。当日は小雨が降っていて、先生は主に車中から史跡を見学、我々取材担当が、カメラやビデオで史跡を撮影して回りました。これらの取材から『妖異川中島』が生まれることになります。
先生がお好きと聞いてた山形名物の冷やしラーメンなども食べて、取材は順調に終了。その日の宿に向かったわけですが……
山形には先生ゆかりの方がお住まいで、その方々を招いての宴会となりました。そして、翌日はその方のお宅にお邪魔して昼の大宴会。先生との取材旅行は初めてだった私は、「毎回、こんな楽しい取材旅行をしているのかぁ」と暢気に思ってましたが、どうも違ったようでして、いささか破目を外しすぎた連日の大宴会に、取材チームの中から「やりすぎたのでは?」という声もあがり、次の取材先である浦和へ向かう車中でチームの雰囲気が微妙なものになってきたのです。
宿泊先の大宮のビジネスホテルで、この雰囲気を変える策はないかと会社の先輩に電話で相談したところ、「大沼、先生は牛肉がお好きだから、牛肉弁当をご用意しろ。大宮駅には『牛肉どまん中』が売っているから!」というアドバイスをもらいました。この駅には全国の有名弁当が集まっていて、米沢名物の牛肉弁当「牛肉どまん中」も販売されてました。翌日、大急ぎで人数分の弁当を揃えて、取材チームに振舞ったところ、あれ不思議、何となく雰囲気が良くなったのです。その雰囲気のままに大宮の鉄道博物館へ行きまして、無事取材は終了となりました。
私の知っている西村先生は、いつも飄々としていて、あたたかな日差しのような方でした。決して偉ぶることなく、子供のような好奇心を持ち続けてきた方だと思います。先生のまわりにはいつも爽やかな風が吹いていました。この取材旅行でも「牛肉どまん中」を見たときの嬉しそうなお顔がまずは浮かんできて、一歩間違えば「ヤバイ」思い出も、忘れられない温かい思い出になっているのです。
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