- 2022.04.08
- 特集
好奇心旺盛な西村京太郎さんと見た鍋冠祭<追悼 西村京太郎 担当編集者が見たベストセラー作家の素顔(2)>
文:武田 昇 (現・第二文藝部部長)
『奇祭の果て』(文春文庫)
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
鉄道ミステリーの第一人者として生涯647もの作品を遺した西村京太郎さん(享年91)。空前絶後のベストセラー作家に伴走した編集たちが、担当作品とその素顔をリレー形式で綴っていく。
「こんな祭りがあるんだけど……」
オール讀物での「遠野伝説殺人事件」の連載が終わり、次回の小説のテーマをどうするかの打合せで湯河原のご自宅にお邪魔したところ、西村さんが新聞記事の小さな切り抜きを見せて下さったのを憶えています。
そこに書かれていたのは、日本三大奇祭のひとつと言われる「鍋冠(なべかんむり)祭」。毎年5月3日に滋賀県米原市の筑摩神社で行なわれるお祭りで、数え年で八つになる少女たちが狩衣姿で張り子の鍋や釜を頭にかぶり、御旅所から神社の本殿までを歩くというもの。これまでも、「おわら風の盆」や「ねぶた」などで十津川警部が活躍する「祭り」シリーズを書かれてきたこともあり、今回はこれで行きましょうと決まりました。
取材旅行には奥様もご一緒されて編集者複数が随行。どこに行くにしても電車に乗られて行くのが基本で、あらためて本当にお好きなのだと感じます(そういえば、ご自宅の応接室にも機関車の模型が置いてありました)。
鍋冠祭の由来には諸説あるようですが、結婚適齢期を迎えた女性が自分と付き合った男性の数だけ鍋をかぶって参加し、その数を偽ると天罰が下るという説もあるとか。
こうして連載小説「奇祭の果て」はオール讀物2007年5月号から開始。物語は、六本木のホテルで殺された人気女優の顔に鉄製の鍋がかぶされていたという奇妙なシーンから始まり、第二、第三の殺人も……。取材から連載開始まではそれほど時間がなく、ご自身の頭の中で物語を組み立てつつ、現地訪問はそれを補強するためのものだったかと思いますが、見聞きした内容や、この祭りの由来は小説内でも生かされています。
自分は小説誌で2年間、西村さんの担当をさせていただきましたが、ひとつ心残りがあります。2007年秋に新たな鉄道博物館が大宮に開館。鉄道好きの西村さんが黙っていらっしゃるわけもなく、たしかその翌春頃に見に行きましょうということになり、話を進めていたのですが、自分の異動が決まってしまい、同行がかないませんでした。小さな頃に親にねだってブルートレインに乗ったりした経験のある自分も、やや鉄分多めの人間なので、ご一緒できなかったのはとても残念。きっと西村さんは、顔を輝かせながらご覧になっていたことでしょう。
奇祭の果て
発売日:2013年12月27日
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