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豪華客船「飛鳥II」でまさかの入港できず!?<追悼 西村京太郎 担当編集者が見たベストセラー作家の素顔(7)>

豪華客船「飛鳥II」でまさかの入港できず!?<追悼 西村京太郎 担当編集者が見たベストセラー作家の素顔(7)>

文:田中 貴久 (現・電子書籍編集部)

『飛鳥IIの身代金』(文春文庫)


ジャンル : #小説 ,#エンタメ・ミステリ

鉄道ミステリーの第一人者として生涯647もの作品を遺した西村京太郎さん(享年91)。空前絶後のベストセラー作家に伴走した編集たちが、担当作品とその素顔をリレー形式で綴っていく。


『飛鳥IIの身代金』(西村 京太郎)

「――海洋日本の面子をぶちこわしてやるんだ」

 公安調査庁が偶然傍受した身元不明の電話音声は、豪華客船「飛鳥II」へのテロを示唆していた。情報提供を受けた警視庁捜査一課は、十津川警部と亀井刑事に飛鳥IIへの乗船と警戒にあたることを命じる――。

 十津川警部シリーズといえば、テレビドラマの影響もあって、日本各地の美しい風物に彩られながら走る鉄道のイメージが強いように思えます。しかし実際には初登場作品は『赤い帆船(クルーザー)』。海を舞台にする作品も幾つかあります。

 とはいえ本書『飛鳥IIの身代金』のように、豪華客船の客となり捜査に当たりながら、クルーズツアーに参加する十津川警部となると、少し珍しいかもしれません。

 西村先生ご夫妻が飛鳥IIに乗船したのは、2014年晩秋のこと。日本一周クルーズツアーの、乗客への催し物である文化人講演の依頼を受けてのことでした。神戸から三陸の宮古、函館を経て山陰の境港でご夫妻が下船するまでの5泊6日間。取材旅行を兼ねて、依頼を仲介した広告部の担当者のほか、編集者たちも各地で交代して乗り込みました。

神戸港からの出発時、見送りの編集者に手を振る西村さんと瑞枝夫人

 私の担当区域は宮古から函館まで。船中での西村先生は、ツアー客の目にすることのない乗組員エリアにまで足をはこばれ、精力的に取材をされていました。時折、小説の構想が思い浮かぶのか、「爆破されるんだよ……」などとにこやかに呟かれていましたので、応対してくださったスタッフの方々の心中は、穏やかではなかったかもしれません。

取材のため操船室を取材。キャプテンの帽子をかぶり前方を見つめる

 船の爆破こそありませんでしたが、近年の日本近海のクルーズでは思いもよらぬ出来事にあたりました。

 函館にスケジュール通りに入港できなかったのです。

 稀に見る悪天候のせいでした。さすがは豪華巨大客船、揺れも少なく安定したものでしたが、風雨のなかで何度も着岸にトライしては離れることを繰り返し、結局その日は諦め外洋へと退避します。

 船内のディスプレイに表示される飛鳥IIの航跡は、一晩中、下北半島の沖合いで行ったり来たり。海上では携帯もつながりません。私たちは飛鳥IIが陸地に近づき地上の電波が届くタイミングで情報をやり取りしていました。

 このエピソードは、本書のなかでも採られ、リアルに再構築されました。

 さて仕事人間の十津川警部。本書では亀井刑事と男2人では船内の情報がうまくとれるか分からないと、自腹を切って妻・直子もクルーズ船に乗せています。嬉しさがにじみでる妻に、照れ隠しめいたセリフを大真面目にかける十津川警部。その様子には、船上で奥様とともに笑顔を見せていた西村先生の姿が重なるように思われました。

復興が進む三陸鉄道にも乗車した
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