- 2022.05.10
- インタビュー・対談
「個人に何ができるのか――組織や時代の流れという大きいものに立ち向かう『個』が自分のテーマです」――20年勤めた県庁を辞め専業になった作家が語る決意
千葉ともこさん『戴天』刊行インタビュー#2
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#歴史・時代小説
2020年に松本清張賞を受賞した千葉ともこさんの『震雷の人』が、新作『戴天』の刊行に続いて文庫化される。デビューを振り返り、また今後の展望について語る。
【#1はこちら】
デビュー作のこと、そしてこれからのこと
デビュー作『震雷の人』も文庫化される。活躍する登場人物こそ違うが、こちらも同じ安史の乱を舞台にした作品だ。
「とくに学生時代に中国史を学んだわけではありません。読書傾向として中華ファンタジーが好きだったり、漢文も好きで白文では読めなくても眺めているだけでテンションが上がったり、中国に短期間の留学もしましたが……。好きという気持ちが強くて、結果的に良い形でそれが作品執筆につながったのかもしれません。
とはいえ、安史の乱が地味なのは承知の上です。『戴天』も『震雷の人』も主人公たちは架空の人物で、せめて楊貴妃や玄宗皇帝みたいな誰もが知っている有名人をメインにしないと売れないよ、とアドバイスされたこともあります。でも手が言うことを聞かない(笑)。やっぱり自分が書きたいものを、誰も書いてない人を書きたいんです」
文庫化にあたっては、大きく改稿したという。
「現代社会でよく言われる同調圧力の怖さを強調しました。“悪い方向に進んでいく”という流れがあるのに、当事者たちは分かっていない。気づいているのは外側にいるわたしだけ、という状況は本当に怖いです。その中で、あれおかしいよね、と言える、向き合える人がいいなと思います。これも勤めているときに、実体験として感じたことです。
組織とか時代の流れという大きいものがあって、その中での『個』とは何かというのが、自分のテーマなんですね。個人で何ができるのか。ひとりでは何もできないと怯むけれど、それを変えていこう、立ち向かおうとしている人たちを書いていくのだと思います」
この3月に退職したタイミングで、新刊『戴天』を上梓。さらに続いて三部作の構想があるという。
「安史の乱は長くて、収束までに9年かかるんです――いまのコロナ禍の状況みたいですね。多くの人が、いつになったら終わるのか、なんとかしてほしいと思っているときに、それを終わらせようと具体的に行動を起こす人たちの話を書きたいです。
そもそも唐のこの時代とバブルが崩壊した日本を重ね合わせたと言いましたが、実際に日本の若い人たちのなかには、努力の機会がちゃんと与えられて、頑張れば報われる右肩上がりの時代のイメージが湧かない人がいます。上の世代に『昔はこうだった』と言われても分からない。また、『震雷の人』では親子関係も扱ったので、成育時の人の温もりを知らないという読者の話も伺いました。
そういう豊かな時代をイメージできない、あるべき幸せな、愛情深い家庭や社会の状況を分からない人たちがそのままでいいわけはないです。だから、それをなんとかするために立ち上がる人が必要です。
自分ではイメージできないながらも、豊かな時代を夢見て、戦争を終わらせようと奔走する人たちの物語を書きたいです。わたしが書く小説のなかでは、安史の乱を終わらせる人、つまり安禄山とともに乱を起こした史思明の息子である史朝義を主人公にして、次の作品を書くつもりです」
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