山本兼一、葉室麟、青山文平、川越宗一ら、多くの直木賞作家を輩出してきた松本清張賞。本年度の受賞作は、中国の唐代を舞台に安禄山の乱によって翻弄される運命に抗った、兄妹を主人公に据えた歴史大河小説だ。「戦乱中の人生観の変化が面白く、心に残る」(中島京子氏)「歴史の大きさと非情さを内包した展開!」(辻村深月氏)と評され、今後の活躍が期待される受賞者・千葉ともこさんのデビューまでの道のりとは――。
困難な時代にこそ必要とされるテーマ
――受賞作『震雷の人』は唐の時代の戦乱を背景に描かれていますが、この時代を選んだ理由を教えてください。
千葉 自分がちょうど大学を卒業した頃のことですが、就職氷河期の真只中にありました。自分が子どもの頃の右肩上がりの経済状況とは世相が180度変わっていて、さらにその後もリーマンショックがあったり、東日本大震災があったり、現在もコロナウィルスの感染拡大と、国難といえるレベルの大きい禍(わざわい)が続いています。そういう時代にあって自分の心の拠り所となるものがほしい。それは何だろうと考えた時に、いかなる困難にあっても自分の信念を曲げず、志を貫き通そうとする「震雷の人」というテーマがまず浮かびました。
時代設定については、日本でも楊貴妃を寵愛したことで知られている、玄宗皇帝の治世の前半は非常に安定した時代で、唐の国力は最盛を極めます。それがあたかも安禄山の乱によって後半に突如崩れたかのようにみえますが、崩壊の予兆はほかにもありました。それらを見極められなかったところが、日本のバブル崩壊と似ているように思えました。自分自身がこれまで体験してきたことを表現するためにも、この時代を描いてみようと考えたんです。
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