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わたしは小説家である前に、スピッツの仔なのだ――谷津矢車さんの激アツエッセイ

わたしは小説家である前に、スピッツの仔なのだ――谷津矢車さんの激アツエッセイ

WEB別冊文藝春秋

谷津矢車「スピッツの仔」

 仕事机の後ろにあるごついスチール製本棚には「神棚」とでも呼ぶべきスペースがある。
 小川洋子『密やかな結晶』、天野純希『桃山ビート・トライブ』、バリッコ『海の上のピアニスト』、本多孝好『MISSING』、シェイクスピア『リア王』、凪良ゆう『流浪の月』といった、大好きすぎて何度も何度も読み返している本が脈絡もへったくれもなく並んでいる処なのだが、そんな一角にひときわ異様な存在感を放つ本が差してある。

 実にヘンテコな本である。
 この本は実測で約150×150mmの正方形。横こそ四六判より大きいものの、縦はむしろ小さい。インターネットで検索しても、いかなる判型に属するのか今ひとつわからない。さらには装幀も癖ありである。ふわふわした真っ白な素材——スポンジ素材だろう——をカバー一面に吹き付けてある。おかげで表紙はすっかり黄ばんでしまい、背表紙を手に取ると埃を被ったタオルみたいな手触りがする。しかも、マスキングして浮かび上がらせたと思しき表紙のタイトルも、素材の経年劣化によって年々読みづらくなっている。
 だが、もはや、タイトルなど判らずとも構わない。覚えているからだ。
『スピッツ』(rockin'on)、それが本書のタイトルである。
 さて、読者の皆様に宣告しておかねばならない。本稿は「作家の偏愛するもの」というお題に応えたものなのだが、もはやオーダーから遠く離れた別物になってしまった。本稿、筆のおもむくまま書いた結果、歴史小説家、谷津矢車の信仰告白となってしまったのである。

 バンド、スピッツ。
 この名前を耳にした、多くの方の反応はこんなところである。
「ああ、『ロビンソン』の人でしょ」
「ミスチルと同時期に出てきたちょっとぱっとしない人たち」
 そういえば、昔ラジオを聴いていたら、「君が思い出になる前に」を流す前、
「スピッツが思い出になる前に、聴いて頂けたらと思います」
 とか抜かしてやが……、おっしゃっていたパーソナリティ氏がおりましたっけ。
 最近はわたしも丸くなったので解脱寸前の菩薩様もかくやの表情で聞き流しているけれども、そうした発言に際する度、肚の底では崇徳院すとくいんと見紛うばかりの怨念を溜め、発言者に殺意の波動を送る今日この頃である。わたしの目の前で世迷言よまいごとを口にした皆さんに幸あらんこと(たとえばおろしたての靴下に軒並み穴が空くとか)を心から祈るばかりだが、あえて声を大にして言いたい。スピッツは「ロビンソン」だけのバンドではないし、ぱっとしないバンドでもないし、2022年現在だってきっちり活動してるわい!

 

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