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ケーキは、ちょっとだけ日々の何かを救ってくれる。甘くてすこし酸っぱい5つの物語『ショートケーキ。』(坂木司)

ケーキは、ちょっとだけ日々の何かを救ってくれる。甘くてすこし酸っぱい5つの物語『ショートケーキ。』(坂木司)

「オール讀物」編集部

Book Talk/最新作を語る

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説 ,#エンタメ・ミステリ

『ショートケーキ。』(坂木 司)

日々を救う、ささやかな祝祭感

「和菓子のアン」シリーズが人気を博している坂木司さんは、ご本人も大のスイーツ好き。待望の新作は、甘くて少し酸っぱい物語が五つ連なる、短編集『ショートケーキ。』だ。

「食をテーマに作品を書くにあたって、自分は食べたいけれど、ほかの人はどうだろうかと想像することが、お話の入り口だと思っています。ケーキは女性のものというイメージが、未だに強いですよね。だからこそ、今回執筆する中で気をつけていたのは、読者を限定した作品になってはいけないということでした。間口を狭めず、色んな年代のよりたくさんの人に届けたい。そういう意味でもショートケーキは広く共有されるテーマだと感じています」

 本作では、様々な世代、立場の人をショートケーキがつなぐ。

「コージーコーナーのお菓子は、仕事帰りの人がお土産に買ってかえるのに、ぴったりですよね。ショートケーキも同じように、大勢の人に受け入れられます」

『失われたホールケーキの会』を結成する女子大生二人組、コージーコーナーでアルバイトする男子大学生、自分の時間を持ちたい初産の母親、大きな決断が苦手な28歳の男性。各短編に登場する人たちの家族の形、ケーキに対する思い、抱えている問題はそれぞれ違う。しかしショートケーキの存在を通して、目の前のもやもやが、明るい方向へと進んでいく。

 表題作「ショートケーキ。」では、大学生の息子、社会人の姉とその両親が描かれる。子供の成長とともに、皆で盛り上がるイベントが減ったカジモト一家。姉の体調不良を機に、家族について見つめ直すお話だ。

「変容していく家族の形は、今回の本に限らず、これからも書く予感がします。家族の停滞感や漠然とした不安は重いテーマですが、今を生きる人々を小説でよく取り上げる以上、避けられません。自動的に描いていくのだろうなと思っています」

『ショートケーキ。』の「。」に込めた意味は大きく二つあるという。

「一つ目は作品中で父親が言ったセリフの『ぜんぶいい!!』という全肯定の〇。二つ目が、ホールケーキの形を表した〇です」

 小説を貫くまなざしが、この「。」に込められている。

「お祝いやごほうびとして、もしくはみんなで盛り上がるときに、ケーキは特別感や祝祭感を生みます」

 祝祭感は甘くない時間があって初めて際立つ。ささやかでも確かな喜びを、多くの人に届ける一冊だ。


さかきつかさ 1969年東京都生まれ。2002年『青空の卵』でデビューし、覆面作家として活動。著書に『ワーキング・ホリデー』『和菓子のアン』『おやつが好き』など。


(「オール讀物」6月号より)

オール讀物2022年6月号

文藝春秋

2022年5月20日 発売

単行本
ショートケーキ。
坂木司

定価:1,540円(税込)発売日:2022年04月08日

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  • 『皇后は闘うことにした』林真理子・著

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