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手土産のかわりに

手土産のかわりに

坂木 司

『おやつが好き』(坂木 司)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #随筆・エッセイ

『おやつが好き』(坂木 司)

 こんにちは。皆さんは今、どんなおやつを食べていらっしゃいますか。私は金沢の米蜜ビスケットをもぐもぐしながらこの文章を書いています。いやあ、このビスケット、シンプルでおいしいですね。瞬間的に口内の水分をがっと奪うんですけど、不思議なことにそれがすぐしゅわっと戻ってくる。口どけに時間差があるのがいい。噛んだとき、奥歯のあたりに熱を感じるのもいい。前はあんまり見かけなかったのに、最近は袋入りの小さなバージョンが出て、スーパーで手軽に買えるところもいい。でも、食べ過ぎてしまうのでそこだけは要注意です。

 閑話休題。この本は、銀座の商店会である『銀座百店会』が発行している『銀座百点』というタウン誌に掲載された、『おやつが好き』という連載がメインになっています。前半は第一期で、こちらはすでに同タイトルで書籍化しているのですが、今回は第二期の『続・おやつが好き』とおやつまわりの文章も合わせてエッセイのみをまとめた一冊となっています。ちなみに書籍化の際に入っていた小説群は、別の機会におやつの小説を集めた一冊として刊行される予定なので、また別の形で手にとっていただければ嬉しいです。

 内容に関しては『銀座百点』なので必然的に銀座のお店が多いのですが、私が勝手に違う場所にあるお店や商品を連想してつけ加えてしまっている回もあります。なので必ずしも「銀座でなければ手に入らない」ものだけではないので、気楽にお楽しみいただければと思います。

 ところでその『銀座百点』ですが、池波正太郎先生の回でも書いたように私にとっては昔から憧れの雑誌でした。だってかつての連載陣がもう、文学の歴史状態なんですよ。子母澤寛に向田邦子、澤地久枝に瀬戸内晴美(のちの瀬戸内寂聴)ってもう! だから連載のオファーをいただいたときには、本当に光栄でした。なんていうかこう、「こんなあっしでいいんですかい!?」と心の丁稚が出てきてしまったくらいの勢いです。でもそんな不調法者の私に、編集部の皆さんは優しかったです。丁稚、おやつを差し出されてあっという間に永遠の奉公を決めてしまいました。

 あ、池波おたくの追記としては、自宅でどんどん焼を再現とか(まあまあおいしかったです)、葱の味噌汁を「ねぶかじる」と呼びだすとか(だから!)、他にも色々ありましたが、兎を模したお饅頭を見つけると「 ふっ。兎忠のやつめ(苦笑)」とつぶやきたくなるというのが、自分的にモスト気持ち悪いポイントでした。あ、これは『鬼平犯科帳』のテレビ版で長谷川平蔵役を演じておられた中村吉右衛門さんへのオマージュです。いえあの、本物はものすごく格好良いので、ぜひ観ていただきたい……!

 そして連載がはじまってからは色々なお店に伺ったり食べたり、自分一人ではできなかったような体験をたくさんさせていただきました。特に楽しかったのは、カステラの回です。本文には書くスペースがなかったので割愛しましたが、実はあのとき、文明堂さんのカステラ以外にも台湾カステラをプレーンとクリーム入りの二種類用意して、食べ比べ会をしたのです。テーブルにずらりと並んだ四本のカステラ。あれは壮観でした。仲の良い仕事仲間の方たちと一緒に楽しんだのですが、全員が「おいしい」「こっちもおいしい」ともふもふ食べまくっていたのが印象的です。車両基地みたいにどかんと並んだ大きなカステラの中、小さな『おやつカステラ』がちんまり座っていたのも可愛かったなあ。

文春文庫
おやつが好き
お土産つき
坂木司

定価:737円(税込)発売日:2022年01月04日

電子書籍
おやつが好き
お土産つき
坂木司

発売日:2022年01月04日

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