- 2022.07.18
- インタビュー・対談
直木賞候補作家インタビュー「人間誰しもが持つ、光と影の輝き」――窪美澄
インタビュー・構成:「オール讀物」編集部
第167回直木賞候補作『夜に星を放つ』
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
「星は光を放ちますが、当然ながら同時に影も生まれます。人間も似たような存在で、善悪併せ持った多面体。だからこそ、登場人物のこの人が悪い、あの人は悪くないと決めることはしたくありませんでした」
窪美澄さんの新刊『夜に星を放つ』。収められた五つの短編には、完全なる悪役は登場しない。各話の主人公が置かれた立場も様々で、婚活アプリで出会った恋人がいるOL(「真夜中のアボカド」)、祖母の家で夏休みを過ごす十六歳の男子高校生(「銀紙色のアンタレス」)、死んだ母親の幽霊が見える女子中学生(「真珠星スピカ」)……と多岐にわたる。
「登場人物になったつもりで執筆していると、キャラクターが持つ悪い部分にも、必ず理由があるとわかってきます。人間を描く際には、一人ひとりの中にある、あらゆる側面や色を描くよう心がけてもいますね。読者の方々に『こういうところ、私にもあるな』と感じてもらえると嬉しいです」
本作をつなぐ共通モチーフである星座は、ライター時代の仕事がきっかけで興味を持ったという。
「星占いの先生と一緒に本を作ったことがあり、その時、星座は人間が物語るためのものなのだと強く実感しました。星を勝手に線で結んでストーリーを作るなんて面白いですよね。実はこの本では、小説の内容と各星座の伝説とが、少しリンクしています」
最初に「銀紙色のアンタレス」を執筆したのは、コロナの足音も聞こえていなかった二〇一五年。その後、世の中がだんだんと変わっていった。
「四本目に収められた『湿りの海』は、コロナが始まった二〇二〇年の初め頃に書いたものですが、世の中の状況は描きませんでした。当時はこれからどうなるのか全くわからなかったので、小説に書き留めてよいのか、どこか迷いや不安があったのかもしれません。
その後に書いた『星の随(まにま)に』、『真夜中のアボカド』では、設定として取り入れました。積極的にコロナ禍を描きたいとは思っていませんが、今回の短編集では、結果的に過渡期を捉えることができましたね」
異なる執筆時期が反映した世の中の変化、そして「人間の光と影」が描き出された本書。表題作もあえて選ばず、一話ごとの個性が光っている。
「収録作品すべてが、私にとって等しく推しですね。お話それぞれは短く読みやすさがある一方で、深みのある言葉も飛び出します。気付きと共に記憶にとどめるように、今日という一日に栞をはさむ気持ちで読んでもらえたらと思います」
窪美澄(くぼみすみ)
1965年東京都生まれ。2009年「ミクマリ」で女による女のためのR−18文学賞大賞を受賞しデビュー。『ふがいない僕は空を見た』『トリニティ』など著書多数。
第167回直木三十五賞選考会は2022年7月20日(水)に行われ、当日発表されます。