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直木賞候補作家インタビュー「母として政治家としての北条政子」――永井紗耶子

直木賞候補作家インタビュー「母として政治家としての北条政子」――永井紗耶子

インタビュー・構成:「オール讀物」編集部

第167回直木賞候補作『女人入眼』

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説 ,#エンタメ・ミステリ

『女人入眼』(永井 紗耶子/中央公論新社)

『商う狼 江戸商人杉本茂十郎』で注目された著者が次に選んだ題材は、鎌倉幕府草創期。源頼朝と北条政子の娘・大姫(おおひめ)の入内で権威拡大を狙うも姫の死で頓挫した、謎多き事件を描く。

「人生で最初に書いた歴史小説は、義経の妻の郷御前が主人公でした。その後も鎌倉時代を書いていたのですが、作家デビューを目指して、もっとメジャーな江戸時代にいったんシフトしたんです。でも、大河ドラマで鎌倉をやると聞いて“今でしょ!”と(笑)」

 頼朝の征夷大将軍任命から三年。後白河院の寵姫・丹後局は宮中での地位安定のため頼朝と手を組まんと、大姫の入内を画策する。それは幕府側の野望にも合致していたが、問題が一つ。幼い頃に許嫁の義高(木曽義仲の息子)を父の命により殺された大姫は、以来ずっと気鬱を病んでいたのだ。果たして帝の妃が務まる姫なのか見極め、入内に導くために丹後局は女房・周子(ちかこ)を鎌倉に派遣する。

「同時代の関白・九条兼実も丹後局の政治的影響力を恐れたように、後白河院の愛人だからというだけでなく、情報や人事を掌握する能力が彼女にはあった。一方、幕府側でも政子は頼朝の妻、北条家の娘に留まらず一人の政治家として権力を握ります。夫の死後も影響力が落ちない点も共通しています。戦国や江戸になると、ここまで女性が自力でのし上がることは難しい。鎌倉時代に興味を惹かれるのは、女性の強さを感じるからなんです」

 政治的リーダーシップを発揮する政子が、唯一思うままにできない母娘関係を軸に物語は進む。大姫の閉ざされた心の内にふれた時、朝廷と幕府の狭間に立つ周子が下す決断とは……。

「七つの少女が“一生の恋”を二十になるまでひきずるなんてありえるのだろうか。“悲恋”や“一途な姫”がもしも作られた美談だとしたら? 誰が何のために作った? そんな疑問から政子と大姫のイメージが湧きました。娘への愛情と、政略的に入内を強いることは、政子の中では矛盾しません。幕府を支えている自負があるから、他者にも同等の要求をする。曲げない、変わらない、後悔をしない。それがカリスマというものだと思います」

 独自の政子像を創り上げるには、かつてライターとして政界や実業界の女性に数多く取材した経験が活きた。

「自他共に甘えを許さず、軽やかに断固として主張する彼女たちの姿は、政子に重なります。カリスマとそれを取り巻く権力構造に男女の別はないし、現代にも通じるものを感じます。カリスマが譲らない分、周囲が辻褄合わせに苦労するのも世の常ですよね(笑)」

永井紗耶子(ながいさやこ)

1977年神奈川県出身。2010年『絡繰り心中』で小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。『商う狼』で新田次郎文学賞、本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞。


第167回直木三十五賞選考会は2022年7月20日(水)に行われ、当日発表されます。

(「オール讀物」7月号より)

オール讀物2022年7月号

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