- 2022.07.18
- インタビュー・対談
直木賞候補作家インタビュー「映画の特殊効果を手掛ける人々の葛藤」――深緑野分
インタビュー・構成:「オール讀物」編集部
第167回直木賞候補作『スタッフロール』
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
『戦場のコックたち』『ベルリンは晴れているか』などで、常に大きな話題になる深緑野分さん。最新作は、戦後ハリウッドの特殊造形師・マチルダと、現代ロンドンのCGクリエイター・ヴィヴィアンという二人の女性クリエイターの映画への情熱と葛藤とを描く長編小説だ。
「映画でいちばん好きなところは特殊効果なんです。幼い頃、『狼男アメリカン』が怖くて、大泣きした記憶が鮮明に残っています。特殊効果は怖い存在でしたが、だからこそ魅力的でした。昔はエンドクレジットを最後まで見る意味がわからなかったんですが、親から、それが裏方への敬意なんだと教わりました。陰で支える人を好きで尊敬しているので、歴史の中で名前のない人々の物語に強く惹かれます」
一九七五年、ハリウッドで特殊造形師として働くマチルダは、ある日、ユタ大学院生のモーリーンから、コンピュータ・グラフィックスの話を聞く。
「モーリーンはいちばん気に入っている人物です。新しい技術を連れてくる人は、周りを振り回して、ちょっと厄介な人が多い。それは先見の明があるからこそで、エネルギッシュですよね」
彼女の話は、コンピュータに懐疑的なマチルダには受け入れがたいものだったが、ベトナム戦争で負傷し、映画への情熱を失っていた同居人リーヴがそこに可能性を見出し、彼女から去る。追い打ちをかけるように、かつて映画の魅力を教えてくれた、父の友人ロニーの死の真相をマチルダは知る。
「マチルダを映画の世界へ導く存在のロニーですが、幻想を持って憧れ続けることは彼女のためにはならない。大人や、親も普通の人間で、弱さを持っていると知ることで、人は幻影を打ち破って前に進めると思います」
特殊造形のライバルの活躍や、CG作品の台頭――スタッフロールに一度たりともクレジットされたことのないマチルダの試練に、実際の映画史が重なる。やがて彼女は忽然と姿を消す。
そして舞台は三十年後のロンドンへ。ヴィヴィアンは大好きな作品『レジェンド・オブ・ストレンジャー』のクリーチャー・Xを産み出したマチルダがCGを嫌っていたという証言を聞いて衝撃を受けるが、直後にXを、CGでリメイクするという依頼が舞い込む。プレッシャーの中で作業する彼女の前に現れた意外な人物は――。
「マチルダとヴィヴィアンは、アナログの特殊造形と、デジタルのCGという技術を人格化した存在です。対立しあうように見える関係性が、互いに尊敬しあい、融合し、共存していく物語になったと思います」
深緑野分(ふかみどりのわき)
1983年生まれ。『戦場のコックたち』で直木賞候補、本屋大賞ノミネート。『ベルリンは晴れているか』でTwitter文学賞国内編第1位、直木賞候補、本屋大賞ノミネート。
第167回直木三十五賞選考会は2022年7月20日(水)に行われ、当日発表されます。
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