8月9日(火)に発売になった、高橋弘希さんのバンド小説『音楽が鳴りやんだら』。読み始めたら止まらないストーリー展開はもちろんですが、たくさんの名曲に触れられるのも本作の面白さのひとつです。
そこで、本小説の発売を記念して、Spotifyで関連楽曲を集めたプレイリストを担当編集者が作成してみました。作品に登場する順番で関連楽曲を集めたところ、全部でなんと7時間超のプレイリストになりました。
小説のおともに、予習に、あるいは復習に。ぜひお聞きください。
下記からプレイリストを再生していただけます。
あわせて本記事では、試し読みが絶賛公開中の第1章から、音楽にまつわる描写をいくつか抜粋して、楽曲と一緒にご紹介します。
Cyndi Lauper/ Girls Just Want to Have Fun
(...)審査される音楽なんてクソみたいだ、葵は思いつつも、レーベルとの契約は余りに魅力的だった。その矛盾した感情から逃れるように、イヤフォンを耳にして音楽を再生する。
“Girls Just Want to Have Fun - Cyndi Lauper”
ヒステリックでチャーミングなシンディの歌声に耳を傾けながら、車窓を流れていく春の街並みを眺める。(...)
Screaming Trees/ Nearly Lost You
葵のバンド「Thursday Night Music Club」は、九〇年代にアメリカを中心に流行したオルタナティヴに属する音楽だった。インデペンデントから生まれたこの音楽は、あのシアトルの狂乱的ムーヴメントに後押しされ当時のメジャーシーンを席捲した。マッドハニー、シルヴァーチェアー、スクリーミング・トゥリーズ――、そうしたバンドが再評価され始め、日本のアンダーグラウンドなシーンでちょっとしたブームが起きていた。葵のバンドはこのシーンで約二年の活動を続けていた。二年続けて、百人を集客できるところまできたのだ。
Sex Pistlos/ God Save The Queen
葵が思い出すのは、小学校の歌のテストだ。出席番号順に名前を呼ばれて、先生のピアノの前に立って、課題曲を唄う。クラス全員に聴かれる歌声――、上手い奴もいれば下手な奴もいる。テストになると音程を外す奴もいる。喉が締まって上手く発声できない奴もいる。次第に自分の出席番号十九番が近づいてくる。あの感覚だ。ライブDVDで見るロックスターも、この時間帯は出席番号が近づいてくる気分になっていたのだろうか――、ジム・モリソンもジョン・ライドンもイアン・カーティスも、誰とも話さずに俯いてひたすら煙草を吸っていたのだろうか――。
Fred Astaire/ Something’s Gotta Give
もう引き返せないんだ、葵はいつも思う。憂鬱な表情で煙草を吸っていた奴を殺して、風俗の呼び込みを相手に挙動不審になっていた奴を殺して、婆ちゃんが笑顔になるような曲を作りたいなんて考えていた手ぬるくて生ぬるい奴をぶっ殺して、ロックバンドのフロントマンにならなければならない。SEの“サムシング・ガッタ・ギヴ”が消えて会場は暗転し、伸也が四つカウントを取り、バンドの最初の音と共に、眩い照明が頭上から落ちてくる。もう引き返せないんだ。轟音の中で再び思う。そして十六小節の前奏が終わる頃、葵はロックバンドのフロントマンとしてマイクへ向かう。
その他、『音楽が鳴りやんだら』には多くの楽曲やアーティストの名前が登場します。作品の世界と行き来しながら、ぜひプレイリストもお楽しみください。