- 2022.08.29
- インタビュー・対談
いじめ、スクールカースト、コロナ禍での雇い止め……彼女たちの土砂降りの日々の転機とは!?――『誕生日の雨傘』(柊子)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
実力派若手女優のデビュー作
十四歳、秋。天気予報はハズレ。雨の誕生日――。私だけの傘を見つけるというのも、悪くない。(「誕生日の雨傘」)/もう慣れた。自ら選んだ「じゃない方」は、雨に濡れない最も安全な場所だ。(「じゃない方のマスカラ」)/言い争いのようなトーンにはならなかった。けれど互いに、指のささくれのような、小さな苛立ちを感じている。(「鏡の中のあめ玉」)
本書は中学時代に同級生だった夏美、真奈、梨沙子の三人の十四歳から三十歳までを描いた連作短編集。女優、そして作詞家としても活躍する、柊子さんのデビュー作だ。
「子供の頃からポエムや歌詞を書くのは好きでしたが、まさか自分が小説を書くなんて思いもよらなかったです。ただ、映像の仕事をするようになってからは、大好きな本をお守りのようにロケ先に持ち歩いていたので、この本がたったひとりでもいい、誰かのお守りのようになったら……」
突然はじまったいじめの理由が分からない中学生の夏美、高校のスクールカーストで自分の優位を保とうと躍起になる真奈、コロナ禍でダンス講師の職を失いそうな梨沙子と、作中の彼女たちの人生は、いずれも雨模様といえる。しかし、それぞれに訪れる転機、互いのやり取りから、その景色が少しずつ鮮やかになっていく。
「よくいじめた方は忘れているけれど、いじめられた方は忘れない、って言いますよね。私自身も、実際に昔のいざこざが、きれいさっぱり解決することなんてないと思っていて――全てハッピーエンドにするより、誰かがいることで明るい方へ歩いてゆくような書き方をしたいと思いました」
自身は「学生時代にスクールカーストの上位に君臨していたタイプではない」というが、短期間ガールズユニットに所属していた経験もある。
「女の子って相手によって見せる顔や態度がけっこう違うし、アイドルは女の子同士の集まりということもあって、あまり目にしたくないものを目の当たりにしちゃったりも(苦笑)」
だが、それを正面からは売り物にはせず、「ヒリヒリするようなところ」を意識しつつ、働く大人の女性なら誰しも、「あっ、こんなこともあった」と共感を呼ぶ一冊となった。
「女優としてはコロナの流行で、毎年続けてきた舞台の公演が二回続けて中止になってしまったのは、すごく残念でした。でも、この間に小説と向き合うことができたので、悪いことばかりじゃなかった。これからもお芝居と小説をちゃんと続けて、両方を高めていけるように頑張ります」
しゅうこ 2007年映画『那須少年記』でデビュー。15年NHK連続テレビ小説『まれ』の先輩パティシエ役で注目を集め、その他出演多数。十代の頃より数々の作詞も手がける。
柊子さんによる『誕生日の雨傘』の朗読がこちらから聴けます▼
https://spotifyanchor-web.app.link/e/HVri5HF9Gsb